皆さん、こんばんは。六代目当主の中谷正人です。
連載の十八回目。家飲みの楽しみを分かち合いましょう。
9月29日に中秋の名月を迎え、そして10月。最高気温は30度をようやく切り、本当の秋がやってきました。明けない夜はない、終わらない夏はない、を実感する日々。
夏の間家庭で食べた魚と言えば鰹のたたき、シマアジの造り、鰻蒲焼、鱧(はも)。それに塩鯖(さば)、鯵(あじ)とサンマの乾物です。私の子供の頃は冷蔵庫が普及し始めたばかりでしたから夏の魚は塩鯖や乾物が多く、鮮魚で買って家庭で食べるのは鱧。それに時々どこかから頂戴する鮎(あゆ)くらいのものでした。鱧は生命力が強く桶に入れて生きたまま大阪から25キロの道のりをトラックで奈良盆地まで運ばれることも多かったはずです。
鱧は小骨が多いので骨切りが必要です。魚屋は二ミリ幅くらいに細かく包丁を入れてくれます。家庭では鮮度が良く小ぶりなものは湯引きにし、それ以外は醤油・砂糖・酒のタレで漬け焼きにしました。夏は「また鱧か」と言うぐらい食べました。
大人になって鱧ほど淡白で旨い魚がないことに気付きました。秋らしい気温になったばかりですので今日は鱧で夏の名残り、それに少しの秋を楽しみましょう。
主役の酒
清酒 萬穣(ばんじょう)大吟醸
精米歩合35%。香り高く味のバランスもとれキレも良い仕上がりです。淡白なアテに合わす冷酒としては一番の選択です。
アテ
鱧の湯引き
売っているものは小骨切りの包丁が入っています。小ぶりなものを選びます。大きく厚い物しかない場合は湯引き前の切り方で調節します。既に湯引きまで済ませたものも売っています。
4センチ幅に切り(大きい物の場合は2センチ幅にし、それを真ん中で半分に切る)、沸騰した湯に入れます。1分ほどで浮き上がって湯の中で踊り始めますのでザルに取り、氷水で冷やします(冷やさないと身の白さが失われます)。水を切って塩もみキュウリとモズクの横に盛り付けました。上には酢味噌。私は砂糖は入れず味噌を酢で延ばすだけです。
晩餐
今宵も家内と一緒に晩酌(ばんしゃく)です。
酢味噌を鱧の上に載せ口に運びます。噛めば優しい旨味がドンと拡がり、楽しんだ後で大吟醸を一杯。クリアな味わいが口の中に残った鱧の余韻と調和して吟醸風味が軽やかに拡がります。そしてもう一杯。純粋な大吟醸の味わいを楽しみます。
次はキュウリを添えた鱧。ショリショリしたキュウリの食感が加わり、やはり旨い。そして酒。
その次はモズクと鱧。モズクの食感が鱧の味を抑えるようです。そして一杯。
鱧に酢味噌とモズクを載せ、キュウリを添えて。これはモズクも調和して口の中が華やかです。そして一杯。余韻が残る内に続けて二杯。杯が小さかったようです。
夏を象徴する鱧は6切れずつしかなかったので直ぐに皿は空。夏の次は秋。冷蔵庫からサンマの乾物を取り出しオーブンへ。季節の変わり目を一晩で楽しむ今宵の趣向。満足です。
ではまた次回。