皆さん、こんばんは。六代目当主の中谷正人です。
連載の十七回目。家飲みの楽しみを分かち合いましょう。
朝夕の気温に秋の気配を感じるこの頃。逃れようのない猛暑が続いた今年の夏も去る時が来たようです。
猛暑の中でお盆の行事を終えましたが、帰省した愚息が珍味を届けてくれました。冷蔵庫に入れたまま存在を忘れていたのですが、それを発見!
その珍味とは石川県、或いは金沢名物の河豚(ふぐ)の卵巣の糠(ぬか)漬けです。河豚といえば猛毒のテトロドトキシンを持ちます。とりわけ卵巣には多く含まれ通常は食べられません。ところが先人は塩をして糠に二年間ほど漬けて発酵させれば解毒され食べられることを発見し、その伝統が日本海側の一部の地域には根付いています。
今回は貴重な珍味を味わう初秋のひと時です。
主役の酒
清酒 奈良吟(ならぎん)純米吟醸
塩気の強い珍味には燗酒が合います。今回も前回に続いて熟成した純米吟醸の奈良吟を選びました。米は中谷の水田も含む大和郡山市内で栽培された山田錦。圧搾直後に生のまま瓶詰めし、温シャワーで加熱殺菌、冷シャワーで冷却し、大正時代に建てられた土蔵の酒蔵で瓶熟成させたものです。
アテ
河豚の卵巣の糠漬け
回りについた糠を指で拭うだけ。そして4ミリほどの厚さにスライス。皿に盛れば出来上がり。
卵巣は強い塩をされています。この塩分を利用して白身魚の造りと合わせることを思いつきました。シマアジを薄造りにし、甘みを加えるべく少し醤油を垂らしました。
晩餐
今宵も家内と一緒に晩酌(ばんしゃく)です。
箸で卵巣スライスを崩し、恐る恐る小さな破片を口に入れました。強烈な塩分です。そこで燗酒。口の中の塩を消し去り、爽やかに胃に落ちて行きます。
次はスライス半切れを一口。細かい卵の粒の歯ごたえは心地よく、強い塩の中に濃い糠の味を感じます。そして旨みがじわりと出てきます。そして燗酒。口の中一杯に香ばしさが拡がりました。これぞ珍味です。
シマアジ一片に卵巣を少し載せて食べました。すると塩と糠の風味がシマアジの淡白な味に深みを加え、その調和感が素晴らしい!そして燗酒。実に旨い。
そしてもう一杯の燗酒。シマアジ、そして燗酒。今宵も満足です。
ではまた次回。