今宵の晩餐 vol.8 鰊の切込み

投稿日:2022年11月11日

皆さん、こんばんは。六代目当主の中谷正人です。

 連載の八回目。家飲みの楽しみを分かち合いましょう。
 銀座二丁目で清酒バー・麹屋三四郎酒舗を経営する藤田さんと懇意にしています。その藤田さんから「鰊の切込み」を頂戴しました。関西でニシンと言えば身欠き鰊という乾物ですが、ニシンの産地である北海道や東北では生の細切りを麹漬けにして食べる伝統があるそうです。「酒のアテにも合う」、と聞けば試さない訳には行きません。

主役の酒

清酒 萬穣(ばんじょう)本醸造 (2019BY 最後の酒)

 今回合わせる萬穣は、中谷酒造の伝統銘柄です。この本醸造に燗を付けていただきます。精米歩合は70%。酵母は1401号。瓶詰時の火入はパストライザー(自動瓶燗機)を使用していますので軽やかな旨味が生きています。低温で保管してきた在庫も終わりに近づきましたが、熟成して円やかさも増しています。 そして酒器は赤膚焼(あかはだやき)の土器風(かわらけふう)盃。

アテ

鰊の切込み

 頂戴したものは青森市で加工されたものです。製造者は内海水産。主原料は鰊、米麹、食塩。麹は溶け、ねっとりとした麹と鰊の細切りがびっしりと交じり合い、少しの赤唐辛子の輪切りが彩を添えています。

 一片をそのまま食べたところ生臭さが少し残るようですので、今が旬の大根おろしを添えることにしました。

 麹の甘みが勝っていますので、酒のアテとして少し味を締めた方が良さそうです。米酢、醤油、それに梅酢を同比率で混ぜたタレを掛けました。梅酢は一昨年に自家製梅干を作った時の副産物です。無ければ無しでも味の大勢に影響はありません。青ネギを散らして完成。

晩餐

 今宵も家内と一緒に晩酌(ばんしゃく)です。

 先ずは燗酒。暖かさが口から胃袋に落ち、体に拡がって行きます。そして大根おろしを添えて鰊の一片を一口。麹の甘みが拡がったあと、素直に淡白な生鰊の旨み。青魚特有の臭みを大根おろしとタレが消し去って、白身魚に近い食感です。

 そして燗酒。麹が口に入っていたせいか、酒は辛口に感じます。そして鰊の切込みを一片。少しずつ食べるのが楽しむコツのようです。

 チビリと食べ、チビリと飲みました。これが食べられて来た地元では常食なのでしょうが、私にとっては珍味のような不思議な感覚。寒さが深まる北の地では燗酒とこの組み合わせはもっと合うに違いないと想いを馳せながら、体も心も温まりました。

ではまた次回。