今宵の晩餐 vol.3 青山椒と晒し鯨

投稿日:2022年5月29日

晒し鯨と山椒醤油

 皆さん、こんばんは。六代目当主の中谷正人です。

連載の三回目。家飲みの楽しみを分かち合いましょう。
風薫る五月。初夏を思わせる強い日差しに汗ばむような日々もあります。この時期、山椒の青い実が店頭に並びます。フレッシュな山椒の実を使って山椒醤油を作り、山椒の爽やかな刺激を受け止めてくれる食材と共に清酒を楽しみます。

主役の酒

清酒 萬穣(ばんじょう)大吟醸

 精米歩合35%のこの酒は、全国新酒鑑評会出品用に毎年醸造してきた酒。際立つ吟醸の甘い香りと爽やかな口当たり、それにキレの良さは全国的に見ても高レベルです。この酒のクリアさが淡白な食材を引き立てると考えて選びました。

アテ

晒し鯨

 晒し鯨(さらしくじら)は、鯨の皮下脂肪の部分を削ぎ切りにして熱湯で脂肪を抜いたもので、ゼラチン質の塊。主役の青山椒を目いっぱい生かしてくれる素材です。鯨といえば私の子供の頃は、たくさん食べました。小学校の給食にも多く用いられた懐かしい食材です。皮下脂肪の白い部分の塊はコロと呼ばれ、おでんにも入っていました。近年は見かけなくなりましたが、薄くスライスした晒し鯨は日々食品スーパーに並んでいます。

 もう一つの主役である山椒醤油を作ります。先ずは青い山椒の実を茎からちぎり、さっと水を掛けておきます。清酒を3分ほど沸騰させた中に入れてひと煮立ちしたら火を止め、清酒の二倍の醤油を入れてできあがり。常温で冷まして冷蔵庫保存ができます。晒し鯨に付いている酢味噌を少しだけ掛け、その上に山椒醤油と山椒の実を乗せれば出来上がり。今が旬の新生姜とラッキョウの甘酢漬も添えます。

晩餐

 今宵も家内と一緒に晩酌(ばんしゃく)です。

 大吟醸は特有の甘い香りが持ち味。立ち上がる香りを際立たせるためにあまり冷やし過ぎない15℃くらい。冷酒グラスでいただきます。
 晒し鯨に山椒の実を2,3粒乗せて口に運びます。山椒の風味が付いた醤油は、清酒の円やかさが加わっており素直に晒し鯨に馴染んでいます。ゼラチン質のやさしい歯ごたえを楽しむ内、噛んだ山椒の実の刺激が口の中一杯に拡がります。そして大吟醸。感動です。

 新生姜の甘酢漬を挟んで晒し鯨。ラッキョウを挟んで晒し鯨。間に飲む大吟醸の回数が増えていきます。気が付けば皿は空。冷蔵庫にあったソーセージをゆで、山椒醤油を掛けます。ソーセージの脂肪を山椒の爽やかさがきれいに流してくれます。これも合います。少し飲みすぎかも。幸せなひと時を過ごせました。

 ではまた次回。