中国では1979年に始まった改革開放経済以降、水産物の生産が飛躍的に増え、その約4割を占める養殖淡水魚だけでも日本の漁獲量の二倍を越えて更に伸びています。
海の漁獲量も鰻登りです。豊富な外貨を使って輸入も拡大。近年、中国の食卓に魚がのぼる機会が増えています。
1.揚げて
私が子供の頃、中華料理店で一番のご馳走は鯉を丸揚げにし、甘酢あんを掛けたものでした。側面に包丁を入れてから小麦粉をまぶして唐揚げにしますので、身は華のように形良く広がっています。
1986年に初めて中国を訪れた時に同じ料理が出てきて感動したのを覚えています。ただ鯉ではなく草魚でした。
中国の北方や内陸の家庭では淡水魚を食べるのが普通です。ドジョウのように小さな魚はそのまま、大きな魚は三枚におろしてから細く或いはぶつ切りにして、粉を付けて揚げたり、油を多めに敷いた鍋で火を通します。
更にあんをかけるか、スープでさっと煮て一手間かけたりもします。
淡水養殖魚で多いのは、ハクレン、コクレン、草魚、鯉、鮒、ティラピア、ケツ魚(桂魚)など。市場やスーパーなど水槽がある店も多く、生きたものを買うことができます。
2.煮て
そのまま煮ることはまれで、スープにする場合でも一旦油を通して臭みをとります。
煮魚の代表は「紅焼魚」(hong shao yuホンシャオユー)。粉をまぶして油を敷いた鍋で両面を焼き、それから醤油、酒と砂糖で甘からく煮ます。
淡水魚はじめ色んな魚を使います。日本では規格外になるような細い冷凍太刀魚を売っていますが、家庭で「紅焼」にして食べます。「紅」は焼き色と醤油の色のことです。
四川料理に「水煮魚」(shui zhu yuシュイチューユー)があります。ナマズや草魚などの淡水魚のぶつ切りを煮込んだものです。
魚を絞めるのに棒で頭を叩いたり、床にたたきつけて殺す店では血が回り、臭くて食べにくいこともありますが辛さで相殺です。
四川料理の寄せ鍋では具をお好みで注文しますが、肉類や野菜、キノコに加えてドジョウ、田鰻や、最近では冷凍の海の白身魚も食べられます。
3.炒めて
炒めただけの料理はあまりお目にかかりません。私が知る限りでは田鰻を細切りにして野菜と炒めたものや、天津では白身を四角く切って片栗粉をまぶして炒める「白崩魚丁」という料理があります。
4.蒸して
南方の沿海地域の家庭料理に海の白身魚を蒸す「清蒸魚」(qing zheng yuチンチェンユー)があります。広東料理店では生け簀から網で魚をすくい、一匹そのまま蒸してくれます。魚料理のご馳走定番です。
醤油と油がかかり、薬味に白ネギと香菜(コリアンダー)が乗っています。
石斑魚(はた)、平目、甘鯛などが多いのですが、白身本来の上品な味に、皮と縁側の部分がゼラチン状になってとろけるような食感と控えめな甘みを加え、それに魚から出た旨味と醤油が渾然と混じった濃厚なスープが滲み、口いっぱいに幸せな味が拡がります。
この料理は北方や内陸でも淡水魚の桂魚を使って「清蒸桂魚」として食べられます。
5.すり身で
薩摩揚げは、広東省の潮州料理が起源です。広東省では魚のすり身団子「魚丸」(yu wanユーワン)も良く食べます。今や魚丸は全国に広がり、スーパーマーケットの冷凍食品売場に並んでいます。北方に多いしゃぶしゃぶ店では基本的に羊肉ですが、魚丸がメニューに載っている店まであります。
すり身とまでは行きませんが、山東料理では魚の身を細かくたたいて餃子の具に使います。「覇魚餃子」です。
6.焼いて
大連では竹串に刺して炭火で塩焼きにした海の魚を食べることができますが、日本統治時代の名残と思われます。他の地域ではこのような焼き魚を食べることはできません。
ただ鰻の蒲焼は全国の食品スーパーで売られています。日本向けに加工している工場が中国国内で販売を始めたところ、ズバリ中国人の味覚に合ったようです。
7.生で
薬味を添えて薄造りにした刺身を食べる習慣は中国にもありましたが、元朝末のペストの流行を機に廃れたようです。しかし新鮮な魚は生が美味しいことに間違いはありません。
日本料理の影響で中国式海鮮料理店でも伊勢エビや白身魚の刺身を食べられるようになってきました。一般の中華料理店でもサーモンの刺身が主体ではありますが出す店が増えています。
長い年月にわたって生ものを食べませんでしたので、食品の管理や調理場の衛生管理も火を通すことを前提にしています。多くの人はおそるおそる箸を付けます。
わさびに殺菌作用があることは知られていますので、醤油が緑色になるまでわさびを入れるのが普通です。ただ、日本料理店も増えていますので、生食に慣れた人がおそるべき勢いで増えているのも事実です。
8.近い将来
中国の一人当たり豚肉消費量は日本の二倍にまで増えてきました。中国では鶏肉は食べますが牛肉はほとんど食べません。米国系ハンバーガーチェーンの躍進で牛肉の味が浸透しつつありますが、それにも増して今後は魚の消費が高まりそうです。
日本の10倍以上の人口が経済的に豊かになれば想像を絶する消費を生み出すはずです。中国の輸入量が増えれば買い付け競争が激化して価格は高騰。
日本において「家族の楽しみは週に一度の焼き魚、土用の丑に一切れの鰻、年に一度の寿司屋」、などという日が来るかもしれません。
つづく
写真上:「蒜子men(火偏に悶)shan(魚偏に善)魚」(田鰻のぶつ切りとニンニクを油通ししてから、醤油と砂糖でとろ火で煮たもの)
写真下:「清蒸左口魚(平目魚)」