夕方、子供達がそろいの運動着姿で学校から一斉に出てきます。近くの子は徒歩で、ちょっと離れた子は自転車で、三々五々帰宅していきます。
そんな情景を見ながら、中国に赴任したばかりの日本人が中国人通訳に尋ねます。
「あれ!、今日は運動会ですか?」
「いやあ、どうでしょう。」
「遠足ですかね」
「わかりません・・・」
1.何日か後
くだんの日本人は下校時間に同じ情景が繰り返されることに気が付きます。実は中国では、小学校、中学、高校の一般的な制服はジャージなのです。
中国の人はそれを当たり前と思っていますので、日本人の質問の背景や違和感を理解しようがなかったのです。
2.日本の特異性
日本では男子は黒の詰襟学生服が主流です。これは明治時代の陸軍の軍服に由来します。女子はセーラー服が主流ですが、これは海軍水兵の制服から来ています。
海上自衛官でもない限り、「セーラー服」と言えば女子高生を思い浮かべるのが日本人の常識です。最近もテレビドラマでリメイクされた「セーラー服と機関銃」という映画の題名は、通常あり得ないチグハグな組み合わせで興味を引くことを意図したものです。
水兵が機関銃を持つことは当然のことですから、日本人以外にこの感覚は理解できません。まして、セーラー服を着た女性がクラブで給仕するなど、逆立ちしても理解できないはずです。
3.制服の影響
今年の春、広州の或る五つ星ホテルで食事をしていますと、ジャージ姿に大きなスポーツバッグを背負った若い女性の集団がドシドシと入ってきて奥の個室に消えていきました。
その中には中国チームで活躍する有名な日本人選手が混じっていましたので、中国を代表する卓球チームの一団であることが解りました。こういう立派な皆さんが、何ら抵抗感なくこのような場所にジャージで入ってくる感覚には驚きを隠せません。
しかし中国では、ジャージは制服として正式な場所に登場できる服装と捉えられていることが理解できました。
4.変化の波
中国政府も生徒の服装が運動着というのは、あまり格好が良くないということに気付いています。とりわけ2008年の北京オリンピックで海外の視線にさらされるのですから気になるようです。
昨年あたりブレザーなどへの変更を進めるよう指示を出していますが、もう少し時間がかかりそうです。
日本でも詰襟の学生服やセーラー服に替えてブレザーを採用する学校が増えていますが、伝統を守る学校が圧倒的に多いように思われます。とりわけセーラー服には中高年の熱い思い入れと支持がその背景にあると推測されます。
中国が2008年を境にドラスティックにブレザー化を果たすとすれば、世界の中で日本の制服の特異性が際だつことになるでしょう。因みに筆者は伝統派です。その理由が少なくとも「セーラー服」でないことは、賢明なる読者の皆様のご推察通りです。
つづく
写真上:天津の通学風景
写真下:海上自衛隊イージス艦(舞鶴港)