中国の男性はタバコ好きです。タバコは最も手軽な庶民の娯楽ですし、互いに勧め合う習慣があり、コミュニケーションの手段にもなっています。
中国では生活水準の向上に伴って、消費量も喫煙人口も増えています。タバコを通して中国庶民のささやかな欲望が見えてきます。
1.製造と流通
新中国成立後、タバコ製造は国家の計画経済に組み込まれ、各地に工場を配置し各地の需要を賄うことにしました。工場毎に幾つかのブランドを持ちますので全国を合わせると銘柄だけでも千を超えました。
1983年に国家専売制が始まり地方政府から権限が移りました。国がたばこ産業を一元的に管理し、やがて中小メーカーを統廃合して集約強化を進めるようになりました。
現在では、メーカーは50余り、ブランド数も400程度に集約されています。メーカーもグループ化が進み、雲南の紅塔集団はその中でも最大のものです。何れにせよ、全国流通しているブランドは限られていますので、各地ではご当地タバコが親しまれています。
2.価格
20本入パックで2元台から100元を超えるものまで様々です。1元は約15円ですから、30円台から千五百円以上まであることになります。又、再販価格が指定されていませんので、価格は店によって違います。
上海虹橋空港の売店には上海産のものが並びます。一番人気の「紅双喜」7.5元。「双喜(そうき)」とは「喜」が二つ並んだめでたい模様で、日本でもラーメン鉢などで見かけます。
中国を代表する花の名を冠した「牡丹」が3.5元。輸入品のダビドフ 20元。マイルドセブン、マルボロは何れも15元。高級タバコの「中華」は40元です。
「中華」は100元以上のものまで何種類かあります。中国には他にも100元を超す高級タバコは多々ありますが、全土での知名度とネーミングの点で贈り物には「中華」が選ばれることが多く、「中華」が中国を代表する高級タバコと言えるようです。
3.味と好み
葉たばこはほぼ国内で賄われています。各地で栽培されていますが、雲南の葉の質が一番良いとされ、生産量も全国の半分を占めます。雲南製タバコは全国に流通し、皆一様に有り難がって吸っています。
各地のほとんどの工場では、昔ながらの葉の特色を素直に生かした製品作りです。
葉の種類や産地、葉の位置(上部の葉は味やニコチンなどの成分が濃厚で、下に行くほどマイルド)によって味わいが異なりますので、その違いに応じて製品化され、消費者は各々の好みと価格で選んでいます。
4.ブレンドもの
「金橋(GOLDEN BRIDGE)」という本格ブレンドもあります。アメリカの技術を導入して福建省廈門で製造され、全国に流通しています。1パック4元程度とお手頃です。
上海産の「MEMPHIS」には”INTERNATIONAL BLEND”と書かれています。こちらは英国のライセンス技術です。上海空港では6.5元でした。
5.チャコールフィルターもの
北京で作られている「中南海」というタバコがあります。中南海(ちゅうなんかい)は天安門の西側の中央政府最高幹部の居住区に由来します。日本では「皇居」とか「首相官邸」にあたるものです。
「いつかは中南海の住民」という有り得ない願望をかき立てるネーミングですが、中国の人々は「中南海で吸う」と「中南海を吸う」の違いは認識しているようです。伝統のものは赤い箱に入った1パック35元ぐらいから100元を超えるものまであります。
20年ほど前にチャコールフィルター付きの新タイプができました。「中南海」とは思えない斬新なデザイン、薬草の匂いがしますが、フィルターを通した味はマイルドセブンに近く日本人には人気があります。
北京空港の売店では、タール8mgで1パック6元、タールが減るに従って急に高くなり3mgで28元です。因みに、日本では一連のシリーズは同価格で販売されています。
6.二種類のたばこ
大都市の平均的な中国人は、1パック6元から8元のタバコを日常吸うそうです。単純に1元を15円で換算して100円程度。物価水準を考えるとマイルドセブンを五百円で買う感覚です。カートン買いで少し安くなりますが、日本よりは割高です。
中国では二種類のたばこを持つのが一般的です。日頃吸うものと、人前で吸うものです。人前では高価なタバコを吸うところを見せます。タバコの価格差が小さい日本とは違い、タバコの価格帯に所得水準が反映するのでしょう。
誰もが「いつかは「中華」、いつでも「中華」」を夢見ています。
中国に限らずタバコには見栄がつきものです。米映画では有名俳優がタバコを吸うシーンをタバコ会社が協賛していました。ダンディズムや格好良さを象徴するからです。
又、未成年者の喫煙が禁じられていますので、大人らしさも表します。ただ、「いつかはクラウン、買うてしもたらいつでもクラウン」と同じで、吸い始めると惰性で吸うことが増え、吸い過ぎに注意する毎日が始まります。
因みに日本では、嫌煙者の冷たい態度に晒されることが増えてきました。人によっては家庭で喫煙が許されない事態も生じていると聞きます。
7.禁煙の波
最近は世界的な禁煙ブームです。日常の食生活が高脂肪、高タンパクに偏った国や地域では野菜摂取量が少なく、しかも生のまま摂取することが多いのも特徴です。
そのような国や地域に限って喫煙と癌の因果関係を論じ、ヒステリックに禁煙を訴えています。その波が中国にも押し寄せてきました。
とは言っても食事の栄養バランスがとれ、味噌、醤油、酢、醸造酒、漬物など発酵食品が毎日の食事に組み込まれている日本同様、中国では禁煙というよりも分煙が主流です。
人が集まる公共施設では、喫煙場所が指定されるようになってきました。例えば、国内線を担う上海虹橋空港の出発ロビーには3カ所の喫煙場所が設けられ、整然と分煙が行われています。
8.上海で
日本料理は一般の中国人にとって少々高価ですが、中国人向けの日本料理店が次々に開店しています。料理の季節感が欠如してるものの、刺身、天麩羅、焼き鳥、鰻蒲焼きなどの定番を安く提供しています。上海でそのような店を訪れました。
隣のテーブルは身なりの良い中国人家族です。ふと見ると、吸っているタバコはマイルドセブン。この家族は日本の文化に親しみを感じているに違いありません。ちょっと嬉しい気分です。
ただ、マイルドセブンは見せるタバコ、明日からは「紅双喜」に戻るはずです。当面、庶民の身近な願望は「マイルドセブンと日本食」なのかもしれません。
つづく
写真上:上海空港売店
写真中:中南海8mg
写真下:紅双喜