今や中国はモータリゼーションのまっただ中。乗用車だけに限れば年間販売台数は200万台程度ですが、トラック等を含めた新車全体では年間500万台の域を越えようとしています。
2020年には、自動車保有台数が1億台を越えるとの予測も飛び出しました。何れにせよ、中国が2010年頃には、日本を抜いて米国に続く世界第二の自動車市場になることが予想されています。このような急激なクルマの増加にどう対処しているのでしょう。
中国は、社会主義の枠組みの中に市場経済を導入する「社会主義市場経済」の道を歩んでいますが、我々日本人が考える以上の競争原理を持ち込んでいます。今回は、クルマ問題を手始めに、「生活に身近な市場経済」についてご紹介しましょう。
1.足りないナンバープレート
クルマの急激な増加に、道路・駐車場の整備が追いつきません。やむなく登録台数を制限することになりました。即ち、登録ナンバープレートの入札制度が始まったのです。
例えば上海ですが、毎月数千枚に限って競りに掛けられます。平均落札価格が4万元(約60万円)を越えることもあります。この収入は、道路整備に充てることができます。
競争原理で上海ナンバーは高くつきますので、他の地域で登録することも一般的です。これは「外地ナンバー」と呼ばれます。
ラッシュ時間帯に市の中心部や高架の無料高速道路を走れないなど通行制限を受けますが、安く自家用車を手に入れられることは魅力です。
このように、総量を規制した上で、需要に応じた一定の抜け道を残して、均衡の取れた発展を図っています。
2.公共事業で
現代中国の汚職は、清朝を上回る「史上サイテー!」の状況であると一般には信じられていますが、日本も自慢できたものではありません。日本の公共事業では、落札予定価格かそれに近い価格で落札されるのが一般的です。
日本経済新聞によれば、2002年度だけでも国が発注した工事や設備の入札で五千件以上の落札価格が予定価格と一致していました。要するに予定価格が外部に漏れているのです。
さて、中国ですが、我々外資企業が工場を建設するのにも入札を行うことが定められています。実際には自由発注に近いのですが、制度がある事自体、驚きです。
因みに中国を含めた海外では、日本の公共事業のように入札前に実績・規模・所在地・人的コネクションなどで足切りをする不明朗な選別は少なく、事業規模に応じた額の入札保証金(Bid Bond)を銀行保証の形で提供さえすれば参加できる間口の広いシステムが一般的です。
落札後の遂行能力を担保する為には、同様に完工保証金(Performance Bond)を提供させます。遂行できなければ保証金は没収です。
3.航空機内でも
航空券は、需給バランスや政策などでディスカウント価格が決まるものです。ところが、それ以外にも中国には驚くべきシステムがあります。機内での競りです。一部の航空会社の国内路線で行われています。
私が始めて経験した時のこと。次々と手を挙げて数字を叫ぶ乗客に、「何か普通でないことが始まった」のは解りましたが、日本人の私が「競り」であることを理解するには時間が掛かりました。機内は一瞬にしてオークション会場に変身です。
先ずは10元からスタート、最高は普通運賃価格です。
「100」、「200!」、「250!!」
「他に居ませんか?・・・」と乗務員。
「350!」、「380」、「・・・」。
4.書画の店で
書を愛する友人とホテルの書画・骨董の店に入りました。価格はあって無きが如し。値札から幾ら値切るかが勝負です。ここは一つ「関西人」になりきりましょう。
「なんぼか安うならんか?」
「1万8千元です」
「それは無いやろ、1万は切ってもらわんと」
「これは、競り落として来たものですから・・・」
「で、なんぼになるんや?」 「1万5千」
「あかん。もう帰るわ」
「では1万2千」
「こないだ買うたんは、8千や。あれくらいにならへんか」
「これは、普通のものと違います。この落款、見て下さい」
「えっ、これは・・・」
「社会主義市場経済」の道を歩む中国ですが、成熟した社会になるまでは、日常生活での「競り」が身近に有り続けることでしょう。現実に即して見れば、成熟した日本社会よりもうまく競争原理を取り入れています。
これらは我々にとって「市場経済」のあり方を見つめ直す良い事例とも思えます。皆さん如何でしょう。
つづく