VOL.92 答える「私」がアホなんです

投稿日:2004年2月16日

答える「私」がアホなんです

 無駄口が多いタクシーの運転手には閉口です。上海以南の大都市では減ってきましたが、北方ではまだまだ健在です。今回は、中国語ができる日本人の「あなた」が天津で出くわす一般状況を紹介しましょう。

1.「韓国人か?」

 中国人は助手席に座るのが普通ですから、後ろの席に座ったら外国人であることがバレバレです。天津や青島には韓国人が日本人の十倍は居ますので、顔立ちが似ている外国人には先ずこの質問です。私が日本人であることを告げると、質問攻めの始まりです。

2.「タバコが好きか?」

 私は2本目のタバコに火を付けました。

 「タバコ、よう吸うなあ。日本のタバコか、幾らや?」

 やたら値段を尋ねるのが中国の習慣です。物の価値は貨幣に置き換えて理解するのでしょう。

 「中国のタバコはどうや?」  そんなことはどうでもエエやろ、こっちは話したくないんやと、心の中では思いますが、相手に悪気がないことが解っていますので、そうも言えません。

 「中国にも雲南産など良い葉があるし、高級なタバコがあるのは知っていますが、私はこれが一番好きです」

 「銘柄は何て言うんや?」

 「ピース」

 「どういう意味や?・・・」こうして話しに引きずり込まれます。

3.「酒も好きか?」

 「まあ、好きですね」

 「中国の酒は飲むか?」

 「中国のビールとワインは飲みますが、白酒は飲みません」

 「なんでや?」

 「蒸留酒で食事をする習慣がないし、高濃度のアルコールは体に良くないでしょう」

 「・・・。そうや、健康が一番や」中国通らしいこの日本人が、中国特産の焼酎白酒:はくしゅ)を好まないと知って、ちょっとがっかりしたようです。

4.「トヨタは日本でなんぼや?」

 「大衆車から高級車まで色々あるから一概には言えません」

 「一番高いのはなんぼや?」

 「35万元くらいかな」5百万円と見当をつけて、ざっと換算しました。

 「そらあ安いな」

 「中国では関税が掛るから高くなるんでしょう」

 「それにしても安い。おまけに中国に輸出してるのは一番質の悪いやつやろう。一番エエのは日本で売って、二番目は欧米、一番悪いのは中国向けや。皆、知ってるでえ

 中国ではそのように信じている人が多いようです。反論しないのが無難です。

5.「日本人は頭がエエ」

 クルマの次はこの話し、今の経済力とそれを成し遂げた日本人は偉いとさんざん誉めた後、いよいよいつもの如くオチがやってきました。

 「クルマを売って儲けて、使い捨ての箸は中国から輸入や。そやから中国の森林はどんどん無くなる。ほんまに日本人は頭がエエ

 一年で3回目。どこか意地の悪いマスコミが流しているネタでしょう。これには、日本人として反論しておかねばなりません。

 「あのねえ、箸を輸出するかどうかは政策の問題でしょう。それに日本は江戸時代から植林を行ってきました。中国では歴史的に木を切り続けて来たでしょう。

 それが原因で、清朝の後期から毎年どこかで洪水や干ばつが起きてきたのに、更に大躍進の時代(注)に人の居る範囲の木はみんな切ってしまいました。それも政策の問題です」私は続けます。

 「木を切ると、森から流れ出る富栄養素が海に流れ込まないので、沿海の水産資源が減る。だから、中国の船が日本近海に魚を獲りに来る、実はそういう問題があるんですよ。」

 「・・・。」彼は黙ってしまいました。

6.「歳はなんぼや?」

 私を休ませてくれたのも束の間、気を取り直したのか、質問再開です。その後も降りるまで。「子供は何人や?」、「日本では産児制限はないのか?」と続きます。

 相手に悪気がないだけに、冷たくあしらうのも気の毒で、やっぱり答えてしまう「私」がアホなんでしょうけど・・・。

注:大躍進の時代

 1958年から61年。農業の集団化(人民公社化)を急ぎすぎ、又農村での原始製鉄にノルマをかけた為、農業生産が激減した。この間、樹木は製鉄用燃料として伐採し尽くした。大量の餓死者を出し、国を揺るがす大惨事となった。

つづく