VOL.91 姓と名前

投稿日:2004年1月12日

姓と名前

1.中国人の姓

 原則として一文字です。司馬遷の「司馬」、諸葛孔明の「諸葛」など二文字の姓は例外的です。

 姓の種類はどうでしょう。大体漢字二文字の組み合わせの日本に比べるべくもありませんが、五千数百と言いますから、かなり多様な字が使われていることになります。

 「」、「」、「」、「」、「」、「」のように基本的に地名や姓にしか用いられない漢字も結構あります。

 「」のように姓に使う場合(shan)と他の場合(dan)で発音が違うものもあります。

 姓の種類は多いのですが、「張」、「王」、「李」、「趙」、「劉」の五つに集中しているのも特徴です。朝鮮半島では同姓は祖先を同じくすると見て同姓どうし結婚できないそうですが、中国にはそのような規律がありません。

2.中国人の名

 名は、二文字もしくは 一文字です。さすが漢字の国、国土も広く名も多様です。

 日本人から見ても素晴らしい名前がたくさんあります。「暁光」、「春霞」、詩的です。「麗芳」、美しさが漂ってきそうです。「賢淑」、家庭をしっかり守ってくれそうです。

 ところが、ある年代に限ってとりわけ同じ様な名前が多いことに気付づきます。それは、文化大革命(以下、文革。1966年~77年)の時代に生まれた方々です。

3.文革時代の男児の名

 「文革」、ズバリです。「赤軍」や「紅軍」、この「赤」や「紅」は毛沢東とその思想を意味します。「学軍」、毛沢東思想を学ぶ軍。「鉄軍」、強そうです。

 「文軍」、文革の軍でしょうか、何れも勇ましいですね。「要武」とか「学剛」などというのも。

 「向東」とか「衛東」というのもあります。この「東」はマレーシアのマハティール首相が提唱した"LOOK EAST"の"EAST"とは違います。毛沢東のことです。

 これらは、両親が革命の志に燃えて命名したというよりも、文革の混乱の中で、「反革命分子」の烙印を押されて迫害されるのを避けるため、やむなく革命的な名前を我が子に付けたのだそうです。

 日本人には想像もつかないことですが、子供の命名にまで夫婦とその子、三人の命運が懸かっていたのです。

4.文革時代の女児の名

 女子でも「衛紅」や「継紅」というのがありますが、多くは「」に代えて「」が用いられました。「」も毛沢東のシンボルです。

 「」、「紅梅」、「冬梅」、「咏梅」など。梅については、毛沢東の詩があります。

 梅花歓喜漫天雪(梅花は漫天の雪に歓喜する)

 凍死蒼蠅未足奇(凍死する蠅は奇とするに足りず)

 「春に先駆けて咲く梅(毛沢東)は空を覆う雪(厳しい革命の道のり)を喜々として受け止める。蠅(反革命分子。時として帝国主義や軍国主義、資本主義)が凍死するのは当然のことである。」くらいの意味でしょうか。

 又、革命京劇「紅灯記」の主人公、鉄道労働者の娘の名から「鉄梅」というのも流行ったそうです。

5.中国人から見た日本の名

 二人の中国人のお客様に、ある日本人男性が名刺を出した時のことです。それまでの自然な笑顔が微妙な表情に変化し、二人で目配せして、席に着かれました。

 その日本人、名は「新幹線」の真ん中の字に「細」の反対の字を書きます。あとでわかったことですが、お二人は男性のシンボルを自慢している冗談じみた名前と感じたそうです。

 昔、算数の問題などでよく使われた「太郎君は2本、花子さんは3本のクレヨンを買いました。二人あわせると何本のクレヨンを買ったでしょう。」の「花子」さん、中国語では「物乞い」を意味します。

 こんな問題を出そうものなら、「花子がクレヨンを買えるわけ、あらへんやろー!」とかまされること必定です。

6.これからの命名

 昔は、英語だけを考えればよかったのですが、中国が世界的な存在感を増すにつれ漢字の意味や中国語を意識する必要が出てきました。

 例えば社名。合併会社の「大阪商船三井船舶」、英語は前後を逆に"Mitsui O.S.K. Lines"としてバランスを取ったと聞いていますが、中国人から見れば日本語のままです。

 昔流行った「譲治」(即ち"George")という名は欧米かぶれといじめられたとも聞きます。これを中国人が見れば「治めさせる」という意味です。

 日本人から見れば同じ「飛鳥」と「明日香」も中国人から見れば漢字通りの意味になってしまいます。

 さいたま市、敢えて県名と同じ「埼玉」という漢字を避けたとしても、中国語名はやはり「埼玉市」になるでしょう。

 広州には、「中森名菜」という日本料理店ができました。もちろん歌手の「中森明菜」をもじったものです。日本語の音読みでもそうですが、中国語で「」と「」の音は同じ「菜」は料理を意味します。従って「中森の有名料理」という意味です。

 皆さん、お子さん命名の時は中国語の辞書でも引きますか。

つづく