VOL.84 中国での清酒造り その2 食文化編

投稿日:2003年6月08日

中国での清酒造り その2 食文化編

6.料理と酒の相性

 世界の酒は料理に合わせて発達してきました。素材の風味を生かす淡泊な味が基本の日本料理には清酒。塩、胡椒、バター又はオリーブオイルを多用する西洋料理にはワインの酸とコクが合います。油と香辛料の強い中華料理には紹興酒などの老酒(黄酒)の甘みと酸が自然に馴染みます。

 一方、穀物が充分採れない地域では雑穀やジャガイモ等を使った蒸留酒が食中酒です。今に伝わる蒸留技術は13世紀のイスラム社会が起源です。それまでは、発酵の失敗もありますのでアルコール度数の高い酒は貴重でした。

 そこで、簡単に高濃度のアルコールを得られるこの方法は、瞬く間に世界に広まりました。中国では革命後の食糧が不足した時代を経て白酒が宴会の主役になりました。ロシアでは貴族こそワインで食事しましたが庶民はヴォッカ、朝鮮半島でも焼酎が多用されます。

 因みに現代日本の焼酎ブームは、甲類焼酎(水を加えた純粋なアルコール)はもとより乙類焼酎(注)さえも伝統の風味を抑えて癖を無くし、「割って飲む」新しい食文化としての広がりです。

注:乙類焼酎

 発酵液を簡単な蒸留器で一度だけ蒸留する為、アルコールと水以外に微量の香気アルコールを含む。この香気アルコールが独特の風味を与える。サツマイモを原料とする芋焼酎、米を原料とする泡が有名。今、流行りの麦焼酎は近年の発明。

7.体に優しい醸造酒

 西洋医学は、化学物質を抽出して効果を調べ、それを薬として与えます。東洋医学では、医食同源としてより食事に近い物、植物や動物から抽出した物など、あくまでも「物」として与えます。

 醸造酒という「物」には化学物質としてのアルコール以外の複雑な組成があり、それらが複合的に体に作用していきます。

 即ち、アルコールが体に良いという根拠の第一は食事と共に摂取することで栄養の吸収を高めることですが、醸造酒にはそれに加えて多くの利点があります。

 アルコールは純度が高いほど吸収が早く分解も容易ですが、肝臓にストレートに負担が掛かっていきます。一方の醸造酒は、原料に由来する糖類、ビタミン、微量栄養素が含まれ、肝臓への緩衝剤となります。

 おまけに微量栄養素には、麹カビが作る肌の肌理を整える成分や血圧を下げる成分、ワインならば近年有名になったポリフェノールが含まれ、健康に役立つことが立証されています。

 醸造酒は人類の長い歴史が生み出した知恵の食物と言えるでしょう。又、乙類焼酎は血液をサラサラにする成分、即ち香気アルコールが多いとされていますが、醸造酒である清酒にも同じ効果を得るに充分な量が含まれています。

8.醸造技術の進歩?

 米価の高い日本では、糊を発酵させた液にアルコールと糖類などを加えて「清酒」としているものが半分以上を占めます。瓶詰め時に水を加えてアルコール度数を調整しますから、アルコールを多く加える方が安上がりです。

 しかし味も薄まりますので糖類などで味付けをするのです。酒税法では清酒の定義は「米、米こうじ、水及びアルコール等を原料として発酵させて、こした物。」この大ざっぱな法の盲点を突いて、糊の原料が「米」澱粉であることを根拠に「清酒」と称しています。

 日本では年々清酒の消費が落ちています。平成14年は全消費酒類の1割を切りました。「清酒」の定義を明確にして消費者の信頼を取り戻す、待ったなしの時期に来ています。

 因みに奈良の中谷酒造では全て米を蒸して作る伝統製法です。糖類の添加も一切行いません天津では全て麹と蒸した米と水だけを原料とする伝統的な清酒、即ち純米酒のみを造っています。「日本の伝統を守り、広める」のが私の信念です。

9.「日本酒のような味がしてますね」

 中国で弊社製品「朝香」の販売を開始したころ、日本から来た人にこう言われました。純米清酒を毎日飲んでいる人は少数派、この方にはあまり馴染みがなかったのかもしれませんが中国で日本と同じ水準の酒を造れるはずがないという露骨な先入観を感じました。

 熱く燗をするとアルコールが鼻を突き、成分に由来する香りが揮発して強く感じます。人肌の燗、常温、或いは冷やして召し上がると、単なる砂糖の甘みではない、深くほのかに果実を思わせる甘みと軽やかさがあります。

 それが純米吟醸酒の味わいです。知名度が上がった今でも「中国で造ったんでしょ。私は日本産のを飲みます」といった事も見られ、偏見との戦いは続いています

10.今宵は如何に

 中国では日本料理店の軒数が急激に増えています。そこで飲まれる主たる酒は清酒中国の方々は清酒が大好きです。日本の方々の、「先ずはビール」と焼酎派が多いのとは対照的です。中国の人々の味覚は素直です。

 皆様も簡単なあてには香り高い大吟醸生魚には燗酒揚げ物には純米吟醸酒などを合わせてみて下さい。洋食も中華も試してみて下さい。お酒選びで食事の楽しみが倍増です。

 「今日はいい肉が入ったから、それをあぶって・・・」  さて酒は、ワイン?清酒?、老酒?、何を合わせましょう。

つづく