VOL.79 タクシーの助手になる

投稿日:2003年1月03日

タクシーの助手になる

 またまたアホな日本人の登場です。舞台は上海。今回は、新米運転手の助手をやったとか、日本でそんなことをする人は居ませんよね。エッ、そんな運転手自体居ないって?

1.ラッキー!

 丁度タクシーが止まり、客が降りてきました。クルマはピカピカ、中も掃除が行き届き、ドライバーは制服を来ています。いいのに当たりました。素早く乗り込みます。

2.「こっちの方かな?」

 「だから、瑞金二路ですよ」

 ドライバー氏は地図を出して確認し、いざスタート。が、地図に気を取られたのか高架道路に乗りそびれてしまいました。ちょっと頭が足りないやつかも知れません。

 「違うやろ!」彼が怒鳴りつけると、

 「実はこの仕事、今日が五日目なんです」振り向いた顔は上気して真っ赤です。汗がしたたり落ち、呼吸もあらくなっています。やばいのにあたってしまったようです。クルマを止めさせて、気持ちが落ち着くのを待ちました。にっこり笑って、

 「地図を読んだげるから、その通り走りなさい。大丈夫、大丈夫」彼はすっかり人助けのつもりになってしまったそうです。

3.「お金は要りませんから・・・」

 「他のクルマにしてもらえませんか」クルマを止めて振り向きました。泣きそうな顔をしています。交差点で、右を指示しているのに混乱して左折してしまったのです。

 こうなったらとことんつきあってやるか、と彼は考えました。

 「大丈夫、私が助けて上げますから行きましょう」

 時計を見ると瑞金路に立ち寄る時間はありません。直接浦東に行くことにしました。

4.初めての高速?

 上海の高架は無料の高速道路、ビュンビュンとクルマが通っています。何とか本線に合流したものの、そこを50キロぐらいの低速運転、しかも右や左に蛇行し始めました。ドライバー氏は目を血走らせてハンドルを指が白くなるほど握りしめています。これから得られる結論は一つ。高速道路を走ったことがなかったのです。

 今更知っても手遅れでした。彼まで顔がひきつり、「真っ直ぐ」と「ゆっくり」を呪文のように繰り返したそうです。

5.更なる試練

 南北高架の分岐点が近づいてきました。合流車をかわせるはずはありません。と、

 「奇跡や!」合流路は工事で封鎖されていたのでした。

 あとは目の前にそびえ立つ巨大な南浦大橋、渡り終えれば高架からは降りられます。橋の中央に向かってなだらかな昇り傾斜、目がくらむほど下に黄浦江と港が見えます。橋の中央を越えました。もう少し、もう少し。右手に出口が見えました。

 「ウィンカー!、右、みぎや!ゆっくり!」車線を移して速度を落としました。壁にぶつかりそうになりながらも螺旋道路を降りきりました。

6.「結婚するならタクシー運転手」

 そう言われる程、昔はタクシー運転手は儲かりました。産業の成熟と競争の激化で、今では農村出身者がサラリーマンとして低賃金で働いているとか。目的地について、運賃を固辞するドライバー氏に無理矢理渡して「しっかりやれよ!」と別れたそうです。

 そのドライバー氏、果たして無事川向こうに帰れたでしょうか。彼の「善意」がアダになっていなければ良いのですが。

つづく