中国語に多少自信のある友人が、日本から同行したお客さんを思い切って、たまに日本人も行く程度の中国式カラオケに連れて行きました。
中国式では接客を職業とする女性が店に入場料(場所代)を払って入り、店の中で客をみつけて話の相手をしたり、デュエットで歌ったり、酒を注いだりして接客し、チップをもらうシステムです。
或る意味では女性も店の客と言えます。そんな訳で店側では接客教育は行いませんから、時にはびっくりするような情況が見られます。では、始まり、始まりー。
1.女の子を選ぶ
客が少なかったのでしょう、服務員(中国では従業員のことをこう呼びます)の案内で女性達がテーブルの前にずらりと並びました。慣れない出張者の皆さんは目をまあるくして、そして目のやり場に困っています。結局それなりに選んで落ち着きました。
2.サービスは・・・
酒が空になっても注ぎません。一人は勝手に自分の好きな歌を歌い始めます。灰皿も吸い殻で一杯です。友人は今夜の世話係、言葉もできますから、そばの女性に要求しました。
「灰皿替えてよ」
「服務員が来てやります」
もう一度催促すると、部屋の外に顔を出して戻って来ました。
「今、服務員がいません」
「あなたが行って交換してきてよ」
それでも彼女は灰皿を持たずに出ていき、やがて服務員を連れて戻ってきました。服務員は、彼のテーブルに新しい灰皿を3つ置き、先ずは女の子達が散らかした果物の皮や果実の殻を布巾で盆に落として綺麗にしています。友人はそれを見ながら再び彼女に、
「灰皿を替えなさい」
「それは服務員の仕事です」
「あなたは何のためにここにいるんですか?」
「あなたの言う意味が解りません」
隣りの同僚の女性は「早く交換しなさいよ」と小声で催促しています。でも彼女は、
「服務員の仕事です」と頑強です。
堪忍袋の緒が切れました。
「帰っていいよ」
「どうして?何を言ってるの?」
「出て行きなさい」
3.働く者として
友人が白けただけでなく、同行の皆さんが盛り下がったことは想像に難くありません。
幾らシステムが違うといっても、最終的には客を満足させて帰すことによって、より多くのチップをもらえる市場メカニズムを重視すれば、彼女の姿勢は常識はずれです。
一方、彼女が自己の器量と店が引けてからの別のビジネスを重視すれば、服務員の働きの悪さに対する客の不満を引き受ける気はさらさら起きないでしょう。
友人によると彼女は二ヶ月前に黒竜江省から来たばかりとか、私は社会主義市場経済導入前の意識を濃厚に残した地域の育ちと見ました。何れにせよ都会に出てきて、競争の中で生き残る事の厳しさをこれから学んでいくことでしょう。
その夜も友人の一行はホテルの部屋に戻るなり、各自パソコンを繋いでEメールを取り込み、ビジネスの現実に立ち返ります。市場経済は毎日が戦いです。
つづく