VOL.71 冬から夏へ

投稿日:2002年5月13日

冬から夏へ

 日本人は「寒い」と聞くと決まって「雪が多いですか」と尋ねますが、世界的に見て寒さと雪の量は比例しません。日本は北西の季節風が日本海でたっぷり水分を含み、それが列島にぶつかって大雪を降らせるという特殊な地形です。

 中国などの内陸では、凍てた大地から蒸発する水分は少なく、降雪量は限られています。ただ「ひたすら寒い」のです。

1.3月下旬

 ハルビンに降り立ちました。この中国最北の省の都は、ロシアが建設し、満州国を建国した日本が引き継いだ街です。ロシア風の建物があちこちに見られ、異国の雰囲気に満ちています。

 ハルビン到着の翌朝、街はうっすらと雪化粧、気温は氷点下数度。桜前線が北上を始めた日本から来た私にとっては真冬に逆戻りですが、氷点下20度、時には30度という長い冬を過ごしてきた当地の人々は着実な春の訪れを感じているはずです。

2.この日

 ハルビンから南東に270km、ロシアや北朝鮮にもほど近い牡丹江市に向かって国道301号を走ります。出発して小一時間、岡のような山が近づいてきました。昨夜降った雪が積もっています。路肩には雪、やがて登りにかかると路面の雪が車に踏み固められてアイスバーンになっています。

 トラックが止まっています。それを追い越すとその前にも、そしてその前にも・・・。タイヤチェーンを持っていないのでしょう、車輪の下に路肩の土を撒いて後ろから人が押しています。後ろに滑り始める車もあり、石を輪止め代わりにしています。

 そのような車のほとんどは空荷です。タイヤの接地圧が不足して当然タイヤは空転します。何れにせよ冬の道路を走る体制ではありません。見れば外地ナンバーの車も混じっています。

3.翌朝

 牡丹江を夜明けに立ち、同じ道をハルビンへ。昨夜も山沿いに雪が降ったようで、昨日と同じ情景を見ながら我々の車は駆け抜けます。窓の曇りを取ろうと指でなでましたが、凍っています。

 朝日があたりを照らし始めました。道程の半ば、尚志市に近づくにつれ雪は溶け、青空の下陽光が輝きます。緩やかに続く丘陵を埋める畑からは緑の芽が今にも出てきそうに思えます。

 ところどころにある棚田は、既に一部が耕されています。朝食の準備をしているのでしょう、点在する集落の煙突から煙が昇っています。

4.その夜

 ハルビンから大連経由5時間半のフライトで広州空港に到着しました。東の裾野は香港、西の裾野はマカオに連なる珠江デルタの頂点に位置する広東省の省都です。外は雨。既に新緑の初夏を終え、梅雨が始まっていたのです。

 厳冬から夏へ一気に駆け抜け、中国の広さを実感した長い一日が終わりました。

つづく