VOL.70 「方言」

投稿日:2002年4月08日

「方言」

1.「日頃どんな話し方をしてるんです?」

 千葉の田舎で尋ねられました。関西人は日頃、「新喜劇」のような話し方をしていると信じ込んでいる人も多いようですが、商売人の言い回しや用語など特別な場合を除いて日頃は共通語を基準にして話しています。

 ただし、関西のアクセントで、語尾が「・・・や。」や「・・・ですわ。」になります。

 私の話しを聞いていた日本語を学んでいる中国人が、

 「それは「方言」ですね」

 「ん、・・・そうですね。「方言」というか・・・」と返答に悩んでしまいました。

2.中国では

 北京語上海語福建語広東語などの方言があり、その違いが大き過ぎて会話での互いの意志疎通が困難です。

 清の時代、北京が首都でしたので、各地から科挙に合格して都にやってくる官僚の人々は当時北京で話されていた言葉の影響を濃厚に受けた言葉で意志疎通をはかるようになりました。

 それを北京官話と呼びます。やがて中華民国ができて、それを基礎として標準語を定めました。「普通話」と言います。義務教育ではその標準語を教え普及をはかっています。

 標準語は中国全土の意志疎通の道具に過ぎませんから、日常生活では現在も方言が使われています。特に広東省では、経済の先進地域の香港が隣にある為、広東語を話すのがカッコイイことでもあり、ローカル放送まで広東語です。ですから、上海人や北京人が広州に行ってローカルテレビを見ても、何の事やらさっぱり解らないのです。

3.「普通話」でも

 一般に標準語を北京語と呼びますが、北京で話されている言葉は標準語ではなく北京方言です。筆者は標準語を解しますが北京の下町で話される言葉はあまり聞き取れません。

 北京独特の言い回しや単語の違いのせいもあるのですが、主たる原因は日常使う多くの単語の語尾が「R化」という変化をしており、特別な訓練を受けない限り聞き取れないことにあります。

 地方人が標準語を話す場合は学校で学んだものですが、北京人はなまじ標準語に近いので方言丸出し、経済の発展した上海や広東の人々からは嘲笑の的です。ライバル意識の強い上海人など、上顎を突き出して奥にこもった発音で「北京人のまね」とか、ギャグの対象です。

 逆に、北京方言を話せない人に対する北京人の態度は熾烈です。東京人が北関東や東北の訛を見下す程度など、たかが知れています。

 日本の公共放送の中国語講座を見ていると、やたら「R」、即ち北京訛が耳に付きます。こんなところにも番組作りに参画する北京人のプライドが現れています。

4.日本では

 共通語はあっても標準語がありません。公共放送でも西日本の人が「塩からいんです」と共通語で言っているのを、アナウンサーが東日本風に「しょっぱいんですね」と不必要な言い換えをしているくらいですから、地方も東京もそんなに差があるとは言えません

 東京訛も強いとは言えません。例えば「する」を「しちゃう」、年配の人は「しちまう」と言います。「飲んぢゃって」(飲んで)、「じゃあ、飲んぢまおうか」(では飲もうか)、「飲んぢゃったンダ」(飲んだの?)となります。最後の「ンダ」が疑問の意味を含むことは私も最初は解りませんでした。しかし、何れも聞き取れますよね。その程度の差に過ぎません。

5.このように

 字は同じでも日本語の「方言」と中国人が意味するところの「方言」はその程度があまりにも違います。

 又、北京人の言う「方言」は、標準語を話す人も含め、北京方言を話せない人々の話す言葉を意味します。ですから北京で、私の日本語を「方言ですね。」と言われた場合は、説明が面倒なので「不一定方言」(必ずしも方言ではありません)と答えることにしています。

つづく