「お父さん、加工貿易の一番盛んな国はどこ?」お子さんに尋ねられたら、皆さんはどう答えますか。
私はその言葉に懐かしさを感じると共に、答えに詰まってしまいました。多くのビジネスマンの方々は、その理由がお解りですよね。
1.加工貿易とは
「原材料を輸入して加工し、製品を輸出する貿易形態」を意味します。
日本では、メーカー自身が原料の輸入と製品の輸出を行うことは希で、総合商社や貿易会社が行ってきました。ですから、私が学んだ60年代末の高度成長期には、個々の企業の貿易形態ではなく、資源小国日本の産業構造を象徴する言葉として使っていました。
即ち、原料のほとんどを輸入し、製品の多くを輸出する工業大国日本は、世界一の加工貿易国という訳です。
2.ビジネスの世界では
加工貿易という言葉は、ほとんど使いません。使うとすれば、海外の加工賃の安い工場に原料を供給して加工させ、製品を買い取る(加工賃だけを決済する場合もあります)委託加工貿易です。
敢えて言えば、もう一つ。発展途上国に安価な労働力を求めて設立した加工・組立工場が行う取引形態です。経済のグローバル化と自由貿易の進展で、工場の最適立地を世界中に求められるようになったからです。
3.改革開放経済の中国
中国は安価で豊富な労働力が売り物です。1980年、経済特区と呼ばれる工業地帯を広東省と福建省に併せて4カ所設けました。インフラを整備し、優遇税制を提示して労働集約型の外資を誘致しました。やがて日本からも食品、家電、繊維、自動車部品など加工・組立工場の進出が始まりました。同時に広東省に委託加工を受託する工場が猛烈な勢いで増えてきました。
4.加工貿易の進化
中国では、この20年の間に経済特区以外にも、経済開発区と呼ばれる工業団地が各地に設立されました。進出する企業が増えるに従い、産業の裾野は広がり、中国の原材料を使って部品など中間製品を作る会社も増えました。勿論素材産業も発展してきました。
その結果、委託加工であれば国内で調達できる原料や部品が増えました。加工・組立工場では部品の国内調達率が上がった上に、国内消費の伸びから中国市場にも販売するようになりました。
現在、中国は世界一の電子部品生産国です。粗鋼生産、多くの家電製品もそうです。携帯電話の普及数も米国を抜き去り世界一です。
5.まさか・・・
小学校の教科書には、30年前と同じ「加工貿易」だけが載っています。
製造業の空洞化が唱えられたのは最近の話ではありません。既に日系企業の海外雇用者数が日本国内雇用者数に迫っています。ご近所でも海外の工場に出張したり、駐在経験がある方は少なくありません。
世界経済の流れに乗って20年で長足の進歩を遂げた中国経済と、国という枠組みにとわられた「加工貿易」を教え続ける日本の教育、ちょっと差がありすぎはしませんか。
写真:「星海湾大橋、大連」
つづく