我々日本人にとって歩道橋は、通学路、繁華街、駅前の交差点など、どこにでもあるものとして身近な存在です。あまりに身近すぎて、日頃注意を払っていません。ですから、例えば天津で日本人に、「南京路の伊勢丹前以外にある歩道橋を知ってますか。」と尋ねたりすると、多くの人が考え込んでしまいます。
そしてあらためて、歩道橋自体ほとんどお目に掛からないことに気づきます。実は北方中国には歩道橋がほとんど無かったのです。人口一千万を豪語する直轄都市天津でも、数カ所にとどまります。北京も同様です。今それが、過去のものになろうとしているのです。
1.北京駅前
6月下旬、市内から北京駅に向かいました。タクシーを降りて、何歩か歩いたところでハッと立ち止まりました。目の前に、歩道橋がそびえ立っていたのです。手すりの取り付けを残すだけで、あと一週間もすれば完成です。
2.考えてみれば
何日も前から各放送局では中国共産党を讃える歌謡番組、建国のドキュメンタリー番組、革命ドラマなど連日盛り沢山です。一週間後と云えば、7月1日。同党結党80周年の記念日なのです。
3.大いなる節目
1949年、中華人民共和国成立以降、同党は一貫して政権を担ってきました。帝国主義の侵略をはねのけ、一般的に中国と呼ばれる地域を統一したことは多くの人々が認める成果ですが、その後の大躍進政策の失敗、文化大革命の混乱に至るまで、必ずしも満足のいく成果を挙げられませんでした。
文化大革命の終了と共に復活した偉大なる指導者、鄧小平氏が社会主義市場経済という新しい路線を打ち出し、現在に続く驚異の経済成長が始まりました。そんな党の成果を振り返る大きな節目として、この80周年は重要視されていたのです。
4.大いなる恩恵
道路を無秩序に渡る人々と自転車が交通渋滞と交通事故を引き起こしていることは以前にも述べたことがあります。それでも首都北京駅の駅前には歩道橋は勿論の事、横断歩道さえも作られてきませんでした。車が歩行者に優先する規則の下で、毎日何万人もの人々が道路を渡る危険を冒していたのです。
それが一転、ほぼ解決したのです。自転車や車椅子などを除いて。
5.心地良い響き
「80周年」。何と気持ちの良い言葉でしょう。中国では「八」は、末広がりということで日本よりもずっと珍重されますので、更に深いめでたさを感じます。「80周年」にできた歩道橋、この大きな恩を人々は決して忘れないでしょう。
6.「人民に奉仕する」:注
もっとも、上海のような経済の先進地域では歩道橋は当たり前に存在しています。
一方北京では、現在存在する僅かな歩道橋の多くが、二年前の建国50周年に建設されたそうです。節目の年に建設されるのは偶然でしょうか。
少なくとも首都北京の市政府は歩道橋の重要性に着目し始めたものと見ることができるでしょう。言い換えれば、一般の人々の日常的な安全や便宜に政策の方向が向かうだけの余裕が出始めたものとも考えられます。
ますます加速する中国の発展は、上海や広州を中心に広がり、首都北京にまで着実に及んでいます。当分目が離せませんね。
注:中国共産党の一貫したスローガン、「為人民服務」。
つづく