食べ物屋の密度が高い中国の大都市や、日本でも私の知る限り大阪という街は例外として、どこでも食べ物屋は価格と味のバランスにバラツキが多いものです。行きつけの店がある場合は良いのですが、そうでない場合は当たるも八卦、当たらぬも八卦。
一方、チェーン店ではどこに入っても同じ価格とメニューで同じ味、期待通りのサービスが受けられ安心感があります。
私は、たまに日本国内に出張する時も、中国に居るときのハイな気分が抜け切れないのか、冒険をしてしまいがちです。ハズレても中国では「価格が安いから当然か」と納得しやすいのですが、日本ではなかなかそうも行きません。
さて今回は、たかが千円されど千円、東京を舞台にセコい話しが展開します。
1.東京に行く
午後一番の商談ですので昼御飯は時間調整を兼ねて訪問先のある駅の近くで食べることにしました。朝8時に自宅を出て来ましたので、時間に余裕があります。
ここは都内のはずれで、珍しく大きな商店街が生き延びています。やたら焼肉屋と中華が目立ちます。人と会うのでニンニクはパス。すると残りはファストフードか、蕎麦屋か。
都心をはずれた蕎麦屋のダシは当たりハズレが大きいし・・・、悩んでいるところに丁度、トンカツ屋が目に留まりました。東京のトンカツはだいたい美味しいものです。店もこぎれいで、客もまずまず入っています。ここに決めました。
2.トンカツ屋
注文してから回りを見回しました。カツは薄そうです。隣りで食べているオッサンのカツ丼は、東京では珍しく色目がきれいで美味しそうです。
「すんません。トンカツやめてカツ丼にして下さい。」
溶き玉子が黄色くかかったカツを口に運びました。色目が綺麗な訳がわかりました。醤油がほとんど使われておらず、一言で言えば砂糖煮だったのです。
「あのー、甘すぎるんですけど、味付け間違ってません?」カウンターの主人は、奥の厨房に顔を突っ込んで確認してくれました。
「うちのはこの味です。」
あきらめて半分だけ食べました。
3.リターンマッチ
4ヶ月後、昼時に再び同じ駅に降り立ちました。「前回は運が悪かっただけや。」と念じながら、商店街の一本隣りの路地を行きます。洋食屋、寿司屋などもあります。ラーメン屋には結構人が入っています。
「ニンニク抜きで作ってもらえます?」「できますよ。」ここに決めました。
「味噌チャーシュー。」単に「味噌」でも良いのですが、チャーシューが一枚も入っていないとがっくりすることがありますので、念には念を入れて「チャーシュー」を付けました。
作っているじいさんが間違えてニンニクを入れてしまったので次のロットに回されましたが、店は満席です。期待が高まります。
4.10分後
目の前に現れました。ラーメンの命はスープ、一口すすってみます。ダシが良く出て、甘みもあり、味噌の濃さもベスト。麺も適度に腰があり、合格です。私は、麺が伸びないように、底からすくい上げて野菜とチャーシューの上に乗せました。と、麺が所々こげ茶色に変色しています。
味噌です。底にはどっぷりと味噌が貯まっていたのです。食べれば食べる程、味噌が溶けて味が濃くなってきます。せっかくのスープですが、飲むのをあきらめました。
「お勘定。」そして続けて「あのー、味噌ちょっと多すぎません?」二回繰り返しましたが、店のばあさんは「味噌」の関西アクセントを聞き取れません。
「底に貯まってましたよ。」やっと解ったようです。作ったじいさんはシレーとして無視しています。
5.帰りの新幹線
駅の売店でカップ酒を二つ買いました。「20ミリ増量」、おまけに地酒メーカーのもので、非常に綺麗な味です。これは大当たり、乗る前にビールも飲んでいたのに2本とも間もなくカラ、出来上がってしまいました。
ふと目が覚めれば、京都を通り過ごして新大阪、40ミリが効き過ぎたようです。
つづく