21世紀を迎えるにあたり、感動することが立て続けに三つあり、新世紀の吉兆のように思われました。私が得た感動に過ぎないかもしれませんが、物は考えよう、皆様にとりましてもきっと良い世紀になるに違いありません。
吉兆その1.白鳥の湖
中国でも12月ともなると、街の中にはクリスマスの飾り付けが目立ちます。日本同様、宗教活動とは切り放した商業ベースでのクリスマスが年々盛んになっています。クリスマスパーティーでのことです。
「彼女は、昨日は江沢民国家主席の前で踊りました。本日は、この店で皆様の為に踊ります。」
司会役のサンタクロースによる紹介が終わると、真っ白な衣装に包まれた踊り子がワンシーン、十分程のバレーを披露しました。たまたまトイレに立っていた私は、幸運にも3メートルの距離から見ることができました。足や手の動き、それに体を細かく振るわせながら白鳥を演じる迫真の演技、本物だけが持つ力を感じました。
「チップを渡すことは失礼にあたるでしょうか。」感動のあまり、店長に尋ねました。
「マネージャーにきいてみましょう。」
やがて、マネージャーとおぼしき男性に連れられて、普通の衣装に着替えた女性がやってきました。踊っていた時は化粧が濃いのでわかりませんでしたが、素顔も美しい小柄な女性でした。チップを受け取るとぺこりとおじぎして、直ぐに去りました。さらりとした受け取り方に、媚びは売らない、プロの自信を感じました。見事でした。
吉兆その2.上海航空
年の暮れ、北京から上海まで飛行機に乗りました。
入口には、3人の乗員が笑顔で乗客を迎えています。機内に入っていくと、全ての乗員が立って、笑顔で迎えていることがわかりました。
通路を進んで私の席に来ましたが、手荷物が大きくて棚に収まりきりません。それを見ていた女性乗務員がすかさず、
「前方のスペースに置いてあげます。どうぞお掛け下さい。」
私の手から荷物を受け取ると一旦後ろの空いている場所まで通路を下がって乗客を通してから、前の方まで持っていってくれました。
航空会社名に注意を払ったことはなかったのですが、従来とのあまりの違いに、気になってきました。チケットを見るとフライトコードは「FM」ですが、これではわかりません。座席のポケットにあるパンフレットに書いてあるはずです。「上海航空」とありました。
民航が分割されて多くの航空会社ができましたが、同社もその一つで、上海を拠点に国内線を運行しています。
その後も食事や飲み物サービスの尋ね方も丁寧で、勿論おしゃべりも無く、終始笑顔で対応してくれました。更には、国内線にもかかわらず英語のアナウンスが上手でした。
上海に着いてから弊社の営業マンにこのことを話すと、上海航空の乗客満足度が一番であることを教えてくれました。競争原理の働く国内線では、驚くべき改善が進んでいたのです。
吉兆その3.大唐西域壁画
20世紀の最期12月31日から21世紀の最初1月1日にかけて、薬師寺で壁画の開眼法要が営まれました。玄奘三蔵が仏教の教えを求めてインドまで旅した道中の風景を平山郁夫画伯が30年の歳月をかけて13枚の絵にされたものです。
我が家から同寺までは至近、正月二日に薬師如来に無病息災を願うかたわら、鑑賞に参りました。
正面には、紺碧の空にそびえ立つヒマラヤ山脈、右手は長安からシルクロード・トルファンの廃墟、左手にはアフガニスタンの仏教遺跡とデカン高原。絵の大きさ、構図の明快さ、色調の対比が自然の厳しさや多難な旅路を見事に訴えかけます。見入っている内に感動が深まっていき、自然に涙が流れていました。
私は、仏教を人類の壮大な交流の象徴として捉えることがあります。インドから中国に伝わった仏教は、やがて日本にも伝えられました。思想のみならず、仏像や寺院の建築を通じて技術や美術も伝わりました。その後も現代日本にまで受け継がれる精神文化に色濃く影響を残しました。
今世紀は、通信や交通機関の発達、低価格化により更に人類の交流が盛んになることでしょう。素晴らしい世紀であったと振り返られる、そんな時代にしたいものです。
つづく