シーン1:
私がしばらくぶりに或るお店を訪れました。
「ご無沙汰しております。いつもお世話になりありがとうございます。」
日本人の店長さんの目はなぜか、点になっています。
「・・・・。ま、ま、お茶でもどうぞ。」
私は勧められるままに腰掛けました。
「お、お元気でした? 病気をされていたとか?」私の目を覗き込んでいます。
「いいえ、ずっと元気でした。そういえば、そんな噂が流れているようで困ったもんです。」
これに力づけられたのか、 「実は、もう亡くなったという噂も流れているんですよ。」
今度は、私の目が点になる番です。
シーン2:
日本人らしき男達が4人、店に入ってきました。ここは中国人が経営する日本料理店です。
「お飲物は?」
「朝香、冷酒で。」一人がすかさず答えます。
朝香の小瓶が運ばれて来ました。彼らはグラスに注ぐと、一人が早速、口に運びます。
「なんだ、この酒は! 前に飲んだのと全然味が違うじゃないか!」芝居がかった仕草で回りにアピールするようにしつこく繰り返します。
「前はうまかったけど、こんなんじゃ全然飲めない! ア・サ・カは飲めない!」
店長があわてて飛んできます。
中国で物を造る場合、コンスタントに品質を維持するという点が最も困難です。最初は、本国からやってきた経営者や技術者が指導しながら工場を立ち上げ、一定の基準に達する製品を生み出します。その後、現地スタッフに引き継がれてから問題が起こりがちです。
工場であれば、最終製品を確実に仕上げることが目標です。その為に、一人一人が前後の工程を考えて自分の仕事を確実にこなさなければなりません。失業の無い公務員体質が染みついた人々は、なかなかこの原則に馴染めません。
そこで、顧客から品質の信用を失えば製品は売れず、最終的には会社を維持できず、何れ失業するということを体系的に理解させ、その理解を継続的に確認するという作業が重要です。人、特に管理者の完全な現地化ができない原因がこのあたりにあります。
最終製品検査を厳重にして不合格品は出荷しないという方法で品質を維持する考えもありますが、実際は十分機能しません。検査の担当者は、不合格と判定した場合、その原因を作った人が責任を問われるので、その人から恨まれます。それが募ると彼は職場で仲間外れにされて居づらくなります。
それを避けるために不合格判定をしなくなります。もっと進むと、その日の生産予定分の合格証を予め出荷ケースに貼ってしまい、それが終わるとその日の仕事は終わりとばかりに持ち場を離れてしまいます。
さて、前掲のシーンに戻りますと、単に悪意あるイタズラなのでしょうか。日本人の社長が居なくなれば品質維持ができないという一般情況を踏まえている点や、清酒の味の違いが解らない中国人経営の店を選んでいる点を考えると、綿密な計算の下に行われた商売上のライバルによるマーケティング実践活動の可能性も否定できません。
何れにせよ、日本人である前に人として、恥ずべき行動は慎んでもらいたいものです。
最近、国際線の航空機が全席禁煙になりました。ショートピースを愛する若社長にとって近年にない試練の訪れです。最大で3時間半、目的地に到着する頃には精神的苦痛は最高に達します。それをものともせず飛び回っているくらいですから、やっぱり健康なんでしょうね。
「今日も元気でタバコがうまい!」(もちろん、喫煙マナーを守ります。)
つづく