VOL.28 「 国家機密 」

投稿日:1998年9月26日

「 国家機密 」

1.国家機密

 国家が存在する以上、国家機密と呼ばれる高度な機密が存在します。国の利益に反する方向でその情報を扱うことは許されません。日本のように平和ボケした社会は別として、中国では当然のことながら厳しい法律もあるようです。

 従って中国の人は、「国家機密」という言葉に敏感です。文化大革命など国家的な社会変動があったこともその背景にあるのでしょう、それを知る立場の人にとっては、漏洩の罪を負うリスクがあるのですから神経質にならざるを得ません。

2.日常の「 国家機密 」

 一方で、ごく日常の商談の席で「国家機密」という言葉が使われます。この場合は本当の意味の国家機密とはどうも意味あいが違うようです。どう違うかって?。それが今回のテーマです。

 日本の企業が商品の買い付けに行った時のことです。商談の現場に立ち会った友人の例が解りやすいので、それを借りて述べてみましょう。

3.優良マーク

 「こんなに弊社の製品は優秀です。優良品のみに認められている国家基準に合格しました。これが合格証です。このマークを製品に付けることが許されています。」売る側は、自慢げです。要するに、そのマークを付ければよく売れるということです。

 「その国家基準とは、どういうものですか。」

 「それは、国家機密です。」出マシタ!

4.国民の義務

 「国家機密だそうです。」中国人の通訳氏は、そのままオウム返しに翻訳します。

 買う側は、顔を見合わせてぶつぶつ言っています。優良品がどう優良なのか基準を知らなければ評価のしようがありません。

 「国家機密のはずがないでしょう。基準は公開されているでしょう。」

 通訳氏は、それを訳そうとしません。かえって買う側にこう言いました。

 「今、国家機密と言ったでしょ!」ブ然とした態度です。わがままな人たちだ、国家機密と言っているのだから教えられるはずがない、日本人はこんな簡単な理屈も解らないのか、と言わんばかりです。国民の義務を果たす正義漢のノリです。

5.消費者の知識

 このままでは通訳氏も含めた中国側と日本側の押し問答になってしまいます。友人が助け船を出したそうです。

 「製品が優良ということはわかりますが、消費者はそのマークを見てどの様に優良なのか知らなければ買わないでしょう。ですから、どういう製品であればそのマークを付けられるのか、一般の消費者或いは国民に対して、公開された基準があるはずです。そのコピーを出してあげればよいでしょう。」

6.機密の正体

 要するに言葉の重大性を逆手に取って、説明したり資料を見せたりするのが面倒なときには、安易にこの言葉を口にしているようなのです。これが日常の「国家機密」の正体です。

 このたびの通訳氏も含め、言われたほうは「機密なら仕方あるまい。」と妙に納得してしまうというわけです。

7.結局

 コピーを出してくれることになったそうですが当日はもらえず、その後かなり日数が経っていますが未だ入手できていないそうです。忘れられたのかもしれません。人間、面倒なことは忘れがちです。

 このように、「国家機密」は、入手することが困難なのです。

つづく