VOL.27 夏の夜の天津 

投稿日:1998年8月29日

夏の夜の天津

1.毎日が縁日

 中国では夏になると夕涼みに出かける人が多いようです。特に天津のように緯度が高い地域は夜8時まで明るく、物を売る露天の店も多く出て、毎日が縁日のようににぎわいます。

 そういった人々を相手に、歩道にテーブルと椅子を並べて料理や飲み物を出す店が増えます。通りによっては両側にびっしりと店が並びます。しゃぶしゃぶなどの鍋物を出す店から簡単な炒め物、つまみの類まで様々です。

2.ある夏の夜

 営業の帰り、ほろ酔いかげんでタクシーを拾いました。運転手に行き先を告げると、「南韓人か。」と尋ねてきました。国交回復までは南朝鮮と呼んでいた影響でしょう、「韓国人」ではなく「南韓人」と言う人が多いのです。そのホテルは韓国人がよく利用するのでしょう。

 ホテルのそばまで帰ってくると、香ばしい煙が立ち登っています。シシカバブ、羊の肉の串焼きです。天津はもとより中国北方から西域、西はトルコ、北アフリカまで広く分布している食べ方です。私も食べてみたくなりました。

3.涼に親しむ

 どこから電気を引いているのか知りませんが、冷蔵庫とテレビを置いて、その回りににはプラスチックの椅子とテーブルを数組ならべ、冷たい飲み物とアイスクリーム、かき氷も出します。夕涼みに来ているカップルや若い女の子のグループが楽しそうに話しています。

 裸のオッサンが一人でテレビに見入っています。そういえば、上半身裸というのも中国男性ファッションの一つです。夏の間は昼夜を問わず街中あちこちで見かけます。

 その隣でシシカバブを焼いています。焼きたてをその場でほおばる人、手に10串も20串も持って帰る人、一人で切り盛りしている主人は黙々と焼き続けます。

4.試してみる

串焼き

 一串2角(3円ぐらい)です。注文しておいて、ビールを買ってテーブルに座りました。コップは無いし、あったとしても衛生上の問題があるので、ビールは瓶からラッパ飲みです。

 焼けたようです。串を手渡しで受け取ります。左手に6本持って、右手にはビール瓶、ビールを飲んでは串を平らげます。香辛料がたくさんかかっています。ビールが進みます。

 生焼けで少し赤いところがありますが、こんな事を心配するようでは夜店に来る資格はありません。

5.やすらぎと緊張

 時々風があります。街路樹をそよがせ、ひと時の涼を感じます。路肩には夕立が残した水たまりが少し残っています。通り過ぎる自転車の数も減ってきたようです。

 そろそろ帰るかな、そう思って視線を転ずると向こうの方でこちらを見ながら何やら話しています。どうやら外国人であることに気付かれたようです。ビールを飲む前に瓶の口をハンカチで拭くのを見られたのかも知れません。

 その時、先程のタクシーの運転手の言葉が頭をよぎりました。

6.引き際

 先の大戦の事もあり日本人を嫌う人もいますし、その逆もあります。人通りが少なくなってきた街の中で嫌がらせをされても助けてくれる人はいません。それに、韓国人と思われると事態が悪化する可能性があります。

 韓国系企業が中国人労働者との間に頻繁にトラブルを起こしたことが原因でしょうか、天津では韓国人を嫌う人が多いのです。そろそろ潮時のようです。ひとときの冒険を終え、席を立ちました。

つづく