VOL.22 世界に冠たる日本製

投稿日:1998年3月28日

世界に冠たる日本製

 VOL.9にクルマ、VOL.20に洗濯機と、中国製品の品質について述べました。発展途上の国なりの苦労ではありますが、日本のように工業化を終えて社会が高度化し、情報の洪水にもまれ、生活を便利にするはずの家電製品までがことごとく複雑化するのも問題がありそうです。

社会の煩わしさから解放される家庭のくつろぎのひととき、社会の進歩と生活のゆとりについて考えさせられました。

1.肖像

 わが家の電子レンジは、少し古い型ですが、まだまだ衰えを見せません。特徴は、操作ボタンとスイッチが全部で31個付いていることです。

 「NEW LIFE PEOPLE」なんて書いてあります。最近は「目の付け所が何とか」とか言っていた、関西の家電メーカー製です。仮に、S社と呼ぶことにしましょう。

2.使い初め

 前は、別のところで使っていたそうですが、一年ほど前に一番頻繁に使う台所にやってきました。

 冷めたコーヒーを温めることにしました。ボタンやら何やらがたくさんついていると、何をどうしていいかわかりません。「だいたい電子レンジなんていうもんは、タイマーをひねって、ポンとスイッチを押したらおわりや」そう考えて、まずはタイマーを探すことにしました。

 ありました。表示パネル右側に白、青、ピンクのボタン、白には「タイマー」と書いてあります。もう解ったも同然です。押してみました。

 ボタンが1センチ程飛び出しました。しばらく待っても、何の変化も起きません。もう一回押してみました。ひっこんでしまいました。失敗です。

 ピンクのには、「あたため加熱」とあります。見つけました。これに違いありません。押してみました。

3.加熱開始

 「そんなアホな!何分加熱するつもりなんや!」いきなり加熱が始まりました。

 表示パネルを見ました。そこには、「あたため」と「おまかせ」と出ています。これなら安心です。ちゃんとセンサーがついていて飲み頃にしてくれるのです。なるほどタイマー付きなんて、フルイ、フルイ、さすがS社、これがニューライフというやつです。

 ところが間もなく、コーヒーが沸騰してきました。止めなければと、スイッチを探し始めました。

4.止まらない

 「ピンクが加熱やったら、隣の青が取り消しに決まってるやん」と安易に考えましたが、そのボタンには、「生もの解凍」と書いてあるではありませんか。

 「しまった。」左端から順に探し始めました。ボタンは上下二列に並んでおり、上段は、「奥様加熱」「レンジ強」「レンジ弱」「グリル」「オーブン」・・・と続きます。下段は、「おまかせ加熱」「下ごしらえ」「酒蒸し料理」「シュークリーム」・・・と続きます。

 コーヒーが絶望的に沸き返っています。その時レンジの音が一段と高くなりました。このままではカラメルになりかねません。しかし、あせれば焦るほど、見つかりません。

5.センサー

 その時です。「チン」と音がして、突然止まりました。センサーが感知したようです。ホッと一息。

 結局、上段の右端に薄紫の地に小さく白い文字で「取消」と書かれた小さいボタンをみつけました。考えてみれば、センサーに人間の好みの温度が伝わるはずがありません。高温の蒸気に感応するように、全て沸騰させてから止まるようです。

6.「どついたろか。」

 むかついた私は、こうなったら最終手段です。使い方を家内に尋ねました。これが一番です。

 要するに、下段左端の「レンジ強」という黒地に濃い灰色の見づらい小さいスイッチを押してから、飛び出したタイマーのボタンを回して時間を調節し、それからピンクのボタンを押せば良いのでした。

7.晩酌の時間

 酒の燗です。教えてもらった通り、やってみました。直径わずか1センチのタイマーを回します。直ぐに「5分」です。戻すと「0」、細心の注意を払って、指先に神経を集中してわずかに回します。

 「15秒」と出ました。よしよし、もう少し。「1分15秒」。行き過ぎです。それにどうして15秒刻みなのでしょう。少し戻して・・・やっとの事で「45秒」になりました。疲れました。

8.考える葦

 神経を使ってタイマーを回すのは、私には向いていないようです。

 人間、進歩がなければいけません。考えた結論は、ピンクのボタンを押して、台所の掛け時計で時間をはかって、丁度になったら「取消」を押すのです。

 それにしてもS社さん、「目の付け所」とやらを、どうしてもう少し早く思いつかなかったのでしょう。電子レンジだけならいざ知らず、携帯電話やビデオデッキ、パソコンなど、あらゆる家電製品の操作が複雑になれば、人間の負担が重い物になります。

 S社が考えたニューライフがどんなものか知りませんが、こんな面倒が待ち受けているのであれば、私は中国流のオールドライフがやはり好きです。

つづく