VOL.20 洗濯機に見る市場経済

投稿日:1998年1月31日

洗濯機に見る市場経済

 旅慣れた人は、荷物が少ないと言います。私も、頼まれ物が無い限り、一週間の出張でも二週間でも鞄一つが原則です。

 着替えは最低限、滞在が長くなると、洗濯をする事になります。カッターシャツは、アイロン掛けの不要なものにします。襟元と袖口に石鹸をつけて擦り合わせ、特に汚れたところをつまみ洗いして、洗面器に水を張ってすすげば、5分でできあがり。

 下着も洗ったあと、しっかり搾ってハンガーに干すだけ。ホテルは空気が乾燥しているので、概ね翌日には乾きます。

 とは言っても、一日疲れてホテルに戻ってからの洗濯は、結構めんどうなものです。そんなとき、洗濯機の有難みが身に染みます。

1.まぎらわしい名前

 天津の工場には洗濯機を置いてあります。たいていは私の衣類の洗濯に使っています。

 メーカー名は、日本の有名家電メーカーのスペルと二文字しか違わず、文字数も同じ、しかも最初と最後のスペルが同じときています。

 更にメーカー名の上には、「中外合資」と書いてあります。中国と外国の資本が合わさって設立された企業と言う意味です。即ち日本の有名メーカーの合弁企業であることを暗示しているのです。

2.「中外合資」の意味するもの

 しかし、普通は日系合弁であれば「中日合資」と国名を表示します。英国であれば、「中英合資」です。では、なぜ国名が書いていないのか、これが問題です。

 中国では、外資の優遇政策が採られており、税を免除したり軽減したりして誘致しています。そこで中国の企業、或いは個人も、合法・違法を問わず外資優遇政策の恩恵を受ける為に、何らかの方法で香港に資金を持ち出し、香港から投資した形にして、合弁企業の設立許可を取得するのです。そういった場合には、国名を表示しづらいようです。

 作られる製品の質も、事実上海外の優れた技術の移転が無い訳ですから、一般的な国有企業が作ったものと大差ないケースが多くなります。

3.使えない洗濯機

 洗濯糟と脱水槽に分かれた二槽式です。日本のメーカーは10年以上も前から作らなくなったタイプです。使用後半年で排水できなくなりました。

 私以外の者が何に使っているのか知りませんが、洗濯槽にはぼろ布の繊維がいっぱいこびりつき、ポケットに入っていたのでしょう、ひまわりの種の殻まで入っています。さては、それらが詰まったに違いありません。従業員に頼んで修理してもらうことにしました。

4.原因に驚く

 「できました。」
 そのはずが、ツマミを排水の位置にしても一向に水が出て行きません。

 「社長、簡単です。こうするんです。」

 やおら、すすぎ水の排水口のパネルをはずして、手を奥につっこんで排水弁のリンケージを手で直接引き上げました。水が勢い良く排出されていきます。要するに、詰まったのでは無く、排水のツマミと弁のリンクが壊れているのです。

 「なあるほど。」と感心してはみたものの、なんでこんな簡単なところが壊れるのでしょう。構造といえば、手で回すタイマーと排水のツマミだけ、モーターやベルトが傷むのならまだ理解できるのですが。

5.市場経済を写す鏡

 何はともあれ、それがよくある事のようで、従業員も当然の如く原因を知っているわけです。

 設計と部品の材質の問題でしょう、修理しても直ぐに壊れてしまう事は想像に難くありません。結局、洗濯のたびにパネルをはずして手をつっこむはめになりました。でも、手洗いよりは楽です。

 中国の家庭でも情況は同じはず、しかも製品の名前がいかにも紛らわしい、なのに売れる理由は唯一つ、安いからでしょう。需要があるのです。

 需要と供給のバランス、今日本でも金融システムのビッグバンやら閉鎖的取引慣行など市場メカニズムの見直しが行われていますが、中国のこんな身近なところでもあらためてその意義を考えさせられるこの頃です。

つづく