1.「美味しくない」
東京では、美味しくないことを一般に「まずい」と表現します(私もVOL.17にて使っています)。これは非常に直接的な表現です。私は東京の生活が長かったので、奈良に戻ってくる時に、ある人から私の表現は直接的過ぎる、例えば美味しくないことは「私の口には合いません。」と言うべきだと指摘された事があります。
ここまで言うかどうかは別にして、いつの間にか、私も直接的な表現を使うことに慣れてしまっていたのでしょう。
では中国語ではどうでしょう。「不好吃(プーハオチー、チーは食べるの意味)」と言います。美味しいが「好吃」ですから、否定の「不」がついて、丁度「美味しくない」に当たります。
2.どんなに?
次は、美味しさの程度です。東京では、とても美味しい、うまい、まあまあ、まずい、と言うのが一般的でしょう。古語でも良し、良ろし、悪ろし、悪し、と言う順序だったようです。
今でも目上の人に評価を尋ねる時には、「良ろしいでしょうか」、詫びる場合に「悪しからず」などと使っています。
中国では、どうでしょう。その程度が良い方から、太好(タイハオ、とても美味しい)、好(ハオ、美味しい)、不錯(プーツオ、いける)、還可以(ハイクーイ、まあまあ)、一般(イーパン、ふつう)、不好(プーハオ、美味しくない)の順になります。
3.方言
以上は北京の場合です。中国は中国語と言っても国土は広く、方言が分布しています。方言といっても、外国語に近いほど発音のみならず人称代名詞、動詞などまで漢字自体が異なりますので、全く通じない場合があります。そこで新中国成立後は、標準語の普及に力が入れられました。
代表的な方言は、上海を中心とした揚子江下流域の上海語、その南の福建省の福建語、さらに南の広東語の3つが挙げられます。
4.北京の方言
今、標準語(北京語)として使われているのは、宮廷の官僚が使っていた北京官話が基になっています。しかしそのままの標準語を話す人はまれで、北京でも町の中に入ると舌を巻いて何でも語尾が「R」(中国語では、「児」と書く)になってしまいます。
例えば、遊ぶと言う意味の「玩(ワン)」が「玩児(ワール)」、ふた「蓋(カイ)」が「蓋児(カール)」と言った具合です。単語自体の方言もあり私も良く聞き取れません。
たぶん標準的な日本語だけを学んだ人が、日本に来て、東京の下町言葉や学生言葉が理解できないのと似ています。しかし、北京人は、自分たちの言葉を標準語と信じていますので、我々外国人にも通してきます。したがって良く解らないことが結構出てきます。
一方、上海、広州など日常全くの方言を話す地域では、北京語しか話せないと見ると、北京語で話してくれます。その北京語は学校教育や放送で学んだものですから極めて標準的で良く理解することができます。妙な逆転現象が起きています。
5.馬馬虎虎
さて先程の程度を表す表現の内、「不錯」は、北京でよく使われる口語です。上海では、「馬馬虎虎(マーマーフーフー)」を使います。
北京でもこの「マーマーフーフー」という言葉は使いますが、その程度は、必ずしも「不錯」と一緒ではなさそうです。少なくとも料理の評価には使っていません。これを北京で使うとどうなるのか、興味のあるところです。読者の皆さん、一度試してみては如何でしょう。
尚、勝手ながら私、結果についての責任は持てません。「悪しからず」。
つづく