VOL.15 わかってんの?

投稿日:1997年7月26日

わかってんの?

1.発端

 ある料理店が、技術監督局より罰金刑にすると圧力をかけられているという報告を受けました。

朝香しぼりたて生酒は、賞味期限を訂正しているので、その様な酒を置いている事が商品質量監督条例(中国語では品質の事を質量といいます)に違反する、と言っているらしいのです。根拠が根拠だけに、ほっておく訳にもいきません。

2.一週間後

 弊社にその店からファックスが流れて来ました。技術監督局の罰金通知の用紙です。処罰の対象は、その店です。処罰の根拠ははっきり書かれてはいません。罰金額は八千元(約十一万円)となっていますが、同局の印は押してありません。

同局が更に圧力をかける為に渡したのでしょう。 弊社では、確かに元の印刷を消すと同時に正しい期限をスタンプで押していますが、工場を出る時点で訂正されている以上、問題とする根拠は無いはずです。

 そこで弊社の営業マンに理由を正しに行かせました。結果は、我々の主張は認めたものの、黒く消した下に元の印刷が透けて見えるものがあったので、やはり表示基準に違反すると言うのです。

 中国広しといえども、透けて見えるという指摘を受けたのは今回が始めてで驚いてしまいました。又、正面切って弊社に言うならともかく、それを根拠に店を罰するというのは、何とも解せません。

3.店の心得

 店を経営する以上は、関係諸官庁とは良好な関係を作っておくのが常識です。技術監督局のみならず衛生局、公安その他諸々です。はっきり言えば、接待や贈り物をすると言う事です。

 通常の儀礼の範囲ということになりますが、それがどのあたりにあるかは、個々の社会や時代によって変わるものです。現代中国では比較的広く捉えられているようです。

 一度良好な関係ができると以後は「好朋友(ハオポンヨウ)」、料理店であれば来る度にご馳走する程度で、もうトラブル無し、2年も経てば「老朋友(ラオポンヨウ)」に格上げのようです。

 ところが、その店を任されている中国人の若い女性は、日本語が堪能で管理能力もあるキャリアウーマン、生真面目で、正面切ってぶつかってしまったらしいのです。

 「朝香しぼりたて生酒は、街中の日本料理店に置いているのだからそれら全ての店を処罰しない限り、処分には従わないし、処罰されたとしてもそれはメーカーの責任であり、全額メーカーに支払わせます。」

  すると監督局の担当官は、「人的にも時間的にもその余裕はないので他の店を調査し処分するつもりはない。問題にしているのは、貴店です。」キッパリです。

 要は、理由は何であれ、口実を設けてその店を標的にしているのです。でも口実にされたこちらの方はいい迷惑です。

4.若社長の出番

 その女性に電話しました。

 「訂正して出荷している以上、基本的に問題は無いと考えています。摘発の対象は、メーカーである弊社ではなく、あくまでも貴店なのです。何と言っても貴店と役所の問題を解決しなければなりません。」

  彼女いわく、「ラベルが何も悪く無ければ、おたくが裁判に訴えたらいいでしょう。」

 「ですから処罰の対象は、貴店であって我々では無いのです。それに中国では裁判の結果は、コネやお金次第で決まる事もあるのですよ。悪くないから勝てる、と言うものではないでしょう。あなた、中国の常識がわかってますか。」

  こうなると、どちらが中国人か解りません。弊社の中国人の副社長と電話を代わりました。

 彼女は、「社長の電話は、責任をわたしの店に押しつけるのが目的ですか。」と、からんできます。原因が、自分にある事がわかっていないようです。

5.収拾策

 私は、店と監督局の問題なので、これ以上深入りしないことを基本に、取引の停止も念頭に置いて考えたのですが、そういう割り切りはできないようです。

 同店は、業績が良く、取引継続のメリットも考えなければなりません。その上どうも、同店のオーナーは上級官庁と特別なコネを持っているようで、処罰できず、監督局が一度振り上げた拳の下ろし場所を作ってやる、即ち担当官の面子を立ててやる必要があるようです。

 そして罰金は、弊社が払うのであれば監督局は気の毒に思って値引きしてくれるらしいのです。

6.結末

 同店に宛てた罰金通知に基づき弊社が五千元を払い、弊社宛ての領収書を切ってくれました(三千元もまけてくれました)。弊社は、同店から少し感謝され、今まで通り取引も続く事になりました。

 監督局の担当官からも内心感謝され、今後「朝香」を口実に使うのはやめると言ってくれています。 中国独特の結末とはいえ、やっぱりハッピーエンドって、いい物です。

つづく