警告:中国旅行で得た、或いは得べかりし感動を減らしたくない方は、最後の四行だけを読んで下さい。
1.万里の長城
北京に観光旅行に行けばほとんどの人が、八達嶺に長城を見に行きます。しかし、御覧になった長城が、実は明や清の時代に建造された城の上にその三倍もの幅で新しく造られたものと言う事実を知る外国人は多くはないはずです。
かつては異民族の進入を防ぐ為に造られたものが、今では外人観光客を集める為に造られ続けているのです。
私が十年前に行った時は、30分も歩けば、昔造られた長城が間近に見られ、その上を歩く事さえできたのです。しかしこの十年の間にもせっせと築城は続き、今では小一時間歩かなければ昔の長城には近くでお目にかかれません。
そこまで歩いて来る根性のある、或いは目的意識を持った観光客はほとんどいませんから、大きな感動に満たされます。特に、「中国四千年の歴史」というやつにメロメロに弱い日本人には、感動が深いようです。
2.修復と新築の区別
中国では、歴史的建造物と現代に復元された物、或いは全く新しく造られた物との区別があいまいです。原型を壊さぬように手を入れるいわゆる「修復」の概念と新築が全く混同されているのです。 ですから、如何にも立派に見せようと、作り直したり、新しく造ったり、それでも昔からあったという事になります。
もっとも、中国ならではのやむを得ない事情もあります。
激しい異民族の侵略にさらされ、その度に前王朝のものはことごとく破壊され尽くす訳ですから、地上に現存する建物は古くてもせいぜいここ二、三百年ぐらいのもの。最近も文化大革命で宗教に関する古い建物はほとんど破壊されましたので、中国四千年の歴史を知ってもらうには新しく造るしかないのでしょう。
しかし、良い事もあります。中国の建築の質は一般的に高いとは言えませんので、数年もすれば百年ぐらい経ったような外観になります。おかげで多くの観光客が中国四千年の歴史の重みに感動を味わえるのです。
3.盤山への旅
ところで先日、日本人会で手配して下さった盤山への遠足に参加しました。今回は、皆様を盤山への旅にご案内致しましょう。
盤山は、天津の北150Kmに位置する15大名山の一つ。観光バスを仕立て、日本語のできるガイド嬢も乗ってわくわくと出発しました。
清の乾隆帝もこの地を好み、麓に離宮までこしらえたとの事。離宮のそばには、万仏寺という由緒ある寺もあり、これらの回りに面白い形をした石や岩が多い事から石趣園という公園になっています。
4.日本軍による破壊
ガイド嬢いわく、日本軍が、万仏寺を始め多くの寺を破壊し、更に文化大革命「でも」破壊され、それを1993年に修復したとの事でした。
日本軍の行為については非難されるべき点が多いのですが、中国各地の寺院・仏像は文化大革命で破壊されたというのが常識と云うもの。事実はわかりませんが、中国では日本軍と文化大革命の被害を混同することもありますので、注意が必要です。
5.来年おいで
さて万仏寺に到着しました。唐の太宗李世民が、高句麗との戦いに斃れた兵士を祭る為に創建したという、いわれは大層立派なお寺です。
93年に、「修復」したとの事ですが、古い建物のかけらもなく、ガラスのはまった格子、コンクリートで固められた狂いのない土台の石組み等、全て新築されたとしか思えません。ここでも「修復」と「新築」を混同しているようです。
本堂以外は、丁度、新築工事が進行中でした。来年になれば、幾つかの山門を持つ由緒ある立派な寺が、観光客に感動をもたらすことでしょう。
6.万仏寺の謎
さて本堂に入ると、彫り跡も真新しい高さ5メートル程の石仏立像が三体ありました。これが中国最大の「石仏立像」だそうです。これは説明によると唐の時代の物との事。私は、いよいよ来たな、と解っていながら意地悪な質問をしました。
「日本には唐の時代の仏像はたくさん残っていますが、お顔が全然異なるので、これは新しい時代の物ではありませんか。」
寺の人から返ってきた答えは、「唐の時代の物です。でも以前はここに無く、93年に北の方から運んで来ました。」
いったい、唐の時代には、どこに創建されたのでしょう。そして、日本軍の壊した寺はどこに・・・・・・。更に、離宮跡も見ました。最近造ったとしか思えない塀だけがありました。謎が深まりました。
7.旅の楽しみ
何やかや言っても、旅にはそれなりの楽しみがあります。
石趣園には、ギネスブックにも載ったと云う、世界最大の壁画もありました。渓流をせき止めて小さなダムを作り、そのダムの壁を端から端まで使って八十七神仙を彫ってあるのです。見ようによっては迫力がありました。
盤山は、徒歩で一時間余りで登れる山で、ロープーウェイも通っておりハイキングには持ってこいの場所でした。
頂上には由緒ある寺があり、もちろん最近建て直された模様ですが、景観に花を添え、又、さわやかな山の空気に触れながらの山登りは良い運動になり、秋の休日を楽しむ事ができました。お世話下さった、日本人会の皆様にはこの場を借りて深く御礼申し上げる次第です。
つづく