中国では、会議の席或いは応接室でもそうですが、広い場所に通されると、ホスト側が先ず口火を切ってタバコを相手側に投げ始めます。一人に一本ずつ行き渡る様に次々と投げて行きます。受けとめなくてもかまいません。テーブルの上に投げてくれます。
今度はゲスト側からお返しです。ポンポンと投げていきます。その後もタバコが空中を飛び交います。広い場所にテーブルをはさんで多くの人がいる場所で必ず見られる光景がこれです。
さて、意外に知られていない中国人の習慣に、物を渡す時に投げるというものがあります。
先日も北京に長く駐在されている日本のホテルマンとお話しする機会がありました。その方がおっしゃるには、「物を買うのに店員が商品を投げてよこすとはけしからん」と言うことなのです。その方は中国の習慣をご存じなかったのでしょう。店員は何の悪気もなく、習慣に従って商品を渡しただけの事なのに、習慣を知らなかったばっかりに不愉快な思いをされた様なのです。
私の会社でも見ていると、ファイルを要求された女子社員がそれを上司の机にバンと投げ出す事がありました。渡される側も何も気にしていません。よその企業や役所でも日常的に見かける光景です。しかし弊社は外資企業ですから、日本式というか一般的な欧米のマナーを教える事にしておりますので、会社外ではともかく会社内では手渡すように指導しています。
さて話をタバコに戻しましょう。
日本では、タバコの好みが多様化した事もあるのでしょう、タバコを勧め合う習慣はあまりありません。又、タバコを取り出したらポケットにしまうのが普通でしょうか。
一方、中国ではタバコを勧めるのが良いマナーとされています。タバコのやりとりで互いの親しみを増すのでしょう。タバコとライターはテーブルの目に付く所に出して置きます。そのしぐさは、「このタバコはみんなで吸って下さい」と言っているようです。タバコを吸わない人に無理強いする訳ではありませんし、良い習慣とも言えるでしょう。
しかし、タバコの銘柄にこだわりのある人にとってはちょっとした迷惑です。因みに私は、両切りピースを愛飲しています。中国の人は、雲南省で採れる葉が一番良いと信じていますので、お客である私には、それで作られた雲煙(雲南のタバコの意味)をくれ、私はピースをやります。ピースには、フィルターが付いていないのが気になるらしく、辛い辛いとあまり有難みを感じていない様です。一方私にとっても、時代遅れのブレンド(下記、注)と甘ったるい香料が気になってあまりおいしいとは思いません。
欧米人の様に自国の習慣を押し通して断るのも一つの手かもしれませんが、日本人の悲しい性(さが)がそうさせるのでしょう。「郷に入れば郷に従え」、やっぱり中国流に交換して、あまり吸いたくない中国タバコを吸うはめになってしまいます。「アア、関西空港で買ってきた貴重な両切りピースが減っていく・・・・」、でもこれも仕事がスムーズに運ぶ為ならと思えば、我慢が出来ようと言うもの。
しかし、この習慣がもう一つの、物を投げ渡す習慣と合わさった場合はちょっと違うのです。確かに、合理的と言えば合理的なのですが、子供の頃からしつけられた習慣のせいでしょうか、私自身投げませんし、何度見てもなじめないものがあります。私の固定観念が強すぎるのでしょうか。
つづく
注:第二次世界大戦後、紙巻きタバコは、世界的にアメリカンタイプの本格ブレンドが主流となっている。 本格ブレンドとは、甘い香りの黄色種、高い香りのオリエンタルリーフ、クセのないバーレー種の三種をブレンド、熱と蒸気でクセを抜き香料を多用して、バランスの良いものに仕上げたもの。アメリカのタバコメーカーが世界市場で最も大きなシェアを占めるのみならず、オリエンタルリーフの産地であるギリシャやトルコ、発酵煙草が主流を占めたラテン系の国々でも本格ブレンドが主流になっている。日本でもマイルドセブン以降発売されたタバコは、そのほとんどを本格ブレンドが占める。